たとえ君が冷たくとも

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    ◇◇◇  時は過ぎ、気づけば計画始動からおよそ四十年が経っていた。隆介は相変わらず研究に没頭する科学者であり続けていたが、歳を重ね老体となっていた。全ては夕依のためだった。あの時、彼は『夕依のことを大切にする』と心に誓った。たとえ機械生命体だとしても、夕依が生き返ってくれるのならそれでいい、と彼は考え続けてきた。そうして四十年もの間研究をし続け、それは完成間近まで来ていた。 「やっと──また会えるのか、夕依」  隆介は(しゃが)れた声で呟いた。  彼の目の前には、長い年月と研究の全てを注いだアンドロイドが佇んでいる。彼はその機体に内蔵された電源を入れた。するとその機体は目を開き、続けてこう呟いた。 「ただいま、隆介」  久々の夕依との再会に涙が出る───ことはなかった。四十年も研究に没頭し作り上げた運命(ゝ ゝ)なのに、なぜこんなにも違和感を感じるのだろう。隆介は考えた。考えた末、出た答えは一つだった。  本当の彼女は、声が綺麗だった(ゝ ゝ ゝ ゝ ゝ ゝ ゝ)。  忘れていたことだった。『声』は人間の持つ言わば『奇跡』だ。時代がどれだけ変わろうと、人間は人間、機械は機械。人間が機械になったり、機械が人間になったりなんてことは、余程のことがない限り有り得ないだろう。『夕依が生き返るためだ』などと心にずっと言い聞かせていたが───彼女は、もう戻ってこない。もうこの世にはいない存在だ。 「どうしたの?隆介」 「夕依───すまない、すまない……」  隆介の目からは涙が溢れていた。今更ながら自分の愚かさに気がついた。この世界では魔法など使えない。ただ機械技術が発達しているだけ。治癒魔法だとか復活の呪文だとか、そんなものが存在する世界線ではないのだ。 「どうして、泣いているの?」  夕依は彼に問いかけた。 「何でも、ないさ…」 「何でもないはずない。教えて」 「───はははっ……やっぱり、いつまで経っても、夕依には敵わん」  夕依はにこっと笑みを浮かべた。本当に人間のようだった。本当に──夕依(ゝ ゝ)のようだった。
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