たとえ君が冷たくとも

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    ***  それからというもの、夕依は隆介の補佐として研究の手伝いをした。彼は万能アンドロイドを製作したとして、全国から称賛を浴びた。しかし彼は万能を追い求めた末、病を患ってしまった。 「大丈夫?隆介」 「ああ」  彼は研究を一休みし、闘病生活に専念することにした。だが、彼の身体に巣食った悪魔は、どんどん勢力を増していくばかりであった。  やがて彼は寝たきり状態となり、夕依が介護を行うようになっていった。いつこの世から消えるか分からない状況下で、彼は夕依にこう呟いた。 「なぁ、夕依。一つだけ願いを…聞いてもらえるか?」 「何?隆介」 「手を……握ってほしいんだ」 「……そんなことでいいの?」 「君と再会してからというもの、ちゃんと手を握ったことがなかったからね」 「…分かった。じゃあ──手を出して」  彼の出した手を、夕依は力強く握った。彼女の手は──とても冷たかった(ゝ ゝ ゝ ゝ ゝ)。 「ありがとう──夕依……」  彼はそう呟いた。 「───こちらこそ、ありがとう……」  夕依はそう返答したが、その頃には彼の手に力は入っていなかった。  アンドロイドに感情はない。ないはずなのだが──夕依の目からは、大粒の涙が溢れていた。
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