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「ヨリさん。本当にいいんでしょうか?」
あかりは祖父母の家でなくヨリのマンションへと越してきた。
「良いも悪いもないよ。オレが一緒に住みたいんだ。それより引っ越し蕎麦食べない?」
「頂きます! 蕎麦はスーパーで買える蕎麦ですか?」
「……オレって蕎麦打ち職人の蕎麦しか食わなそうに見える?」
残念、ピザの時みたいには笑わない。
「いや、そういう意味では。仕事をまだ決めてないので家事を任せて貰えるならやりたいな、なんて。蕎麦は打てませんが」
「部屋帰ってきて、お姉さんが蕎麦を打ちしてたら嫌だ。ハウスキーパーとして雇ったんじゃないし家事は二人でやろう。こう見えて得意なんだ」
「お言葉ですが、掃除は……」
リビングはゲーム機とソフト、攻略本が散乱していた。あかりとの件がヨリス人口を減らしたものの、アトランティスの宝を切っ掛けにレトロゲームを配信する活路を見出す。
「あ、あれね。視界に入れたくなくて仕舞い込んでたんだけど、最近はゲーム配信メインにやってて」
「モデルのお仕事はやらないんですか?」
「うん、お姉さんとの時間を大事にしたいし。やっぱりゲームをやりたいからね」
好きになったと言われ、キスをし、同棲もするのだが、どうも実感がわいてこない。
お姉さん呼びも継続されるし、あかりは自分の気持ちを返す機会を掴めずに居た。あかりでも告白する時はムードを意識するのだ。
出された蕎麦を一口し、まぁ先は長いしと考え直す。もう一口食べようとして、箸や丼があかり用にあるのに気が付いた。
「美味しい!」
「それは良かった。引っ越し蕎麦には末永くおそばにって意味があるらしいよ。本来は引っ越してきた人が隣人に振る舞うものだったらしいんだけど」
「すいません、振る舞ってもらって! 代わりといってはなんですが、夜は私が作ります」
「期待してる」
こほん、あかりは咳払いする。
「それで好きな食べ物と食られないものを教えてくれます?」
「うーん、どうしよっかな。お婆ちゃんも言っていた通り、知る楽しさがあるよ」
「え、教えてくれないんですか? 一品ぐらい、いいじゃないですか?」
ヨリからもあかりにお願いしたい事があるが、ひとまずステイしておく。ここぞという場面でおねだりカードを切り、断らせない。ヨリのデッキ構成はあかり特効だ。
「じゃあ、あかりの手料理、好物になるくらい食わせて」
ピンクの毛先を捻じり、舌を出してにっこり微笑む。
「……あ、あ、あ、あかり? 手料理がこ、こ、好物?」
「っ、あはは、何その顔! 待って、何で倒れるの?」
「呼び捨てと笑顔のコンボはズルいですって!」
育成三段階目【勇者様昨夜はお楽しみでしたね】になるのは、もう少し後のお話。
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