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試着を含め1時間程度と見積もったドレス選びが難航した為、次の写真撮影はおしてしまう。
撮影を担当するのはアイドルの写真集を手掛けるカメラマン。ヨリはこの機会に宣材写真を撮る算段でプロに依頼した。
場所はサロンに併設される庭園で、管理の行き届いた花々が香り高く季節を讃えている。
「美容院なのに庭まであるんですね?」
「ここでカットモデルの撮影やお茶会をやるんだって」
「そうなんですか! お茶会かぁ、別世界って感じがします」
薔薇のアーチを見上げるあかりもレースをふんだんにあしらったドレスを纏い、そこそこ現実離れした姿ではあるが……。
「リボンのドレスを着なかったのを怒ってます?」
「怒ってない! オレはお姉さんが気に入ったドレスを着ればいいって最初から言ってた」
確かに言っていたし、確実に怒っている。
「……そうですね、あぁいう可愛らしいデザインのドレスは本物のお嫁さんに着て貰って下さい」
案件の時と同様、あかりにポーズは取らせず、自然な表情が撮影されていく。
小気味良いシャッター音を聞きながら、ヨリはメロンソーダーを飲み、どうやらツーショットを撮るつもりはない様だ。
「そうだ、ヨリ様は結婚願望ないんです?」
撮影中の会話は禁じておらず、あかりが質問を飛ばす。
「は? 今なんて?」
ぶはっと飲んでいた物が吐き出される。
「結婚願望ないんです?」
「違う! ヨリ様って何、ヨリ様って?」
「ヨリスのブログに書いてあったので」
【ヨリス】のワードに一瞬だけ顔が曇った。
「ヨリスを知ってるのか。まぁ、その呼び方は即刻やめて。お姉さんに呼ばれると、ちょっと怖い」
「ならヨリヨリ?」
「お姉さん、わざと言ってるだろ!」
庭の隅で座っていたヨリは挑発にのって、日向へ連れ出される。
あかりの思った通り、太陽の下のヨリはきらきら輝く。
ヨリスはウェディングドレスがヨリの隣に立つのを見たくないが、薔薇を背景するヨリは見たいはず。まるで絵本から抜け出した王子様みたいに眩い姿を。
輝きの代償とし、煽った口元を容赦なくギュッと摘まれ、情けない表情をおさめられてしまったがあかりは満足した。
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