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あかりの頭の中はぐるぐると喫煙所でのやりとりが巡り、どうにかして2人を見返してやりたい。
クソつまらない企画ーーあの言い草は企画に携わる者として悔しく、なによりヨリを馬鹿にされたのが腹立たしかった。
「教会みたいに映える場所と、企画を黙っていてくれる人が揃えば撮影してくれます?」
「庭の撮影じゃ物足りなかった?」
「物足りなくはありません! とても楽しかったです!」
「それなら、なんでまだ撮りたがるの?」
ヨリの手元で撮影風景が流れている。映像は別段問題が無さそうなのだが、当人は撮影続行を主張し続けた。
「私、この企画を絶対成功させたいんです! お願いします、やらせて下さい!」
「張り切ってくれるお姉さんの気持ちは嬉しいよ。俺だって企画を成功させたい」
ここでやっとヨリはあかりを見た。協力的なのは歓迎するが、こんなに食い下がるのは何故だろうと傾げる。
「……祖父母に見せるのは駄目でしょうか? 実家は田舎なので人の目はありません。自然が映えます」
「は? 身内に見せるって、今から?」
「きちんと話せば祖父母は分かってくれます、口外もしません。ウェディングドレスを祖父母に見せたらヒネり有りますよね?」
「ヒネり?」
映えだのヒネりだの、あかりの口からそんな用語が出てくるとはキナ臭い。
とは言え、ウェディングドレスを祖父母に見せる絵はあっても良いかもしれない。元カレや女友達に見せ付けるより嫌味もないだろう。
ふむ、ヨリは頷く。
「この後の時間は作ろうとすれば作れる。ただし問題がひとつ!」
名探偵風に人差し指を立てる。
「な、なんでしょう?」
「そのドレスを買い取らなきゃいけなくなるって事。リースって選択が無い訳じゃないが、断言しよう。お姉さんは絶対汚す!」
異議あり! 同じく人差し指をかざし反論したいものの、ヨリ探偵の指摘は的を射ていた。事実、先日ピザを食べた際もソースをワンピースへ落としてしまったのだ。
「ちなみに買い取りって、お値段はいくらでしょうか?」
「正確な額は聞いてないけど、高額であるのは間違いないよね。お姉さん、払ってくれる?」
残念ながら、あかりに支払い能力などない。
「私、ドレスをーー」
言葉尻が潰れたのは、ヨリがあかりの唇へ指を押し付けたから。
「じゃあ、オレとゲームをしてみない?」
ドレスを汚さぬよう気を付けるなんて無駄は言わせない。ヨリが魅力的な取り引きを持ち掛ける。
「これからお姉さんの実家に行って、動画に使えるシーンが撮れればドレスをプレゼントしてあげる。撮れなかったら自腹っていうのは? どう?」
「やります!」
あかりは二つ返事をし、取り引き成立の握手を交わそうとする。
とその時、テーブルに乗せたメロンソーダーが振動により倒れ、悲鳴のハーモニーが庭園中に響くのであった。
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