冒険の書

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 天は二物を与えずーーなどとよく言ったもので、天はヨリに恵まれた容姿ばかりかマンションまで授けたらしい。  実際マンションを持っているかは置いておき、ヨリが自分より恵まれて映り、羨ましくなる。  当然、成功者と呼ばれる人達は裏打ちされた知識と経験で財産を築き、相応の努力を重ねたはずだ。しかし、交際相手に浮気疑惑を持ちながらウェディングロードを突っ走ろうとした彼女に計画性は備わっていない。  失う物なんかどうせないし、話を聞くだけならいいか。失恋したのも相まり、半ば自棄で依頼を引き受けてみようか過る。  そして口を開けかけた時、店内に数名入ってきた。  浮気を言及するのに適した穴場のカフェでもスイーツタイムとなれば来客はある。若い女性等の声が響き渡り、ヨリはさっとサングラスを掛けた。 「明日9時、ここにきて」  いったん席へ戻りメロンソーダーを飲み干すと名刺を渡し直し、記載される住所を指で弾くヨリ。それから足早に店を出ていってしまう。  話の展開についていけないあかりがメロンソーダー代も支払うと気付く頃、ヨリの姿は完全に見えなくなっていた。
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