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冒険の書
「恋人と人生のパートナーは別、ひとりの女性に全部求めるのは無理」
この発言は浮気をされた挙げ句、振られた元宮あかりへの終曲となった。
あかりは席を立つ交際相手を見上げ、一定量を越える怒りや悲しみはすぐ感じないんだなぁ、去りゆく背中を黙って見送る。
桜舞う、季節は4月。彼女は寿退社し、部屋を出る手続きを済ませ、後はプロポーズを受けるだけだったが……この瞬間から仕事無し、部屋無し、貯金無しとなり、いわゆる詰みである。
終わった、私の人生終わったわ。テーブルの上で祈るよう項垂れ、ため息をつく。
結婚するにあたり浮気の件をはっきりさせておこうと指摘した途端、相手は待っていましたとばかり別れ話へ直行。素直に謝罪してくれれば許す気でいたのに、あかりが捨てられてしまった。
結婚を焦った節は認めよう。ただ、あかりとて29歳。諸々のタイムリミットを意識して焦るのも仕方ない、それどころか浮気する男との結婚に目を瞑るほど追い込まれていたのだ。
「恋人と人生のパートナーは別、ひとりの女性に全部求めるのは無理?」
ふいに後ろの席から声が掛かった。
「それって本当に無理ゲーなのかな?」
あかりがギクリと振り返ると、メロンソーダーを啜る青年と目が合う。この見知らぬ容姿を一言で言い表わせば【今時の子】
ざっと見積もって、4、5歳は離れていそう。
聞かなかった事にして姿勢を戻したが、青年は正面にやってきて、にっこり笑う。
「ねぇ、お姉さん。恋人と人生のパートナーは別、ひとりの女性に全部求めるのは無理って言われてたよね?」
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