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彼が帰った後、私はあの夜の彼の事を思い出していた。
あの人は誰だったんだろう。
藤ヶ谷さんから同じ香水の香りがした。
まるであの夜の彼に抱きしめられているような、そんな思いが私の心をときめかせた。
私は友達とランチの約束をした。
あの夜の彼の事と、藤ヶ谷不動産社長藤ヶ谷琉との事を話した。
「えっ? 雫は夜抱きしめてくれた彼と、藤ヶ谷さんを重ねてるの?」
「そう言うわけじゃないけど、なんか同じ人かなあって、思ってる、ううん、思いたいのかな」
「でも藤ヶ谷不動産社長って、御曹司だよね」
「そうかな」
「大変な相手だよ、今、注目されてる社長で、婚約者いるみたいだけど・・・」
「えっ? そうなの?」
「ちょっとハードル高いかな」
「ちょっとどころじゃないじゃん、無理だよ、初めから遊び?」
私は谷底に突き落とされた感じだった。
同一人物なら、夢も希望もないよ。
「聞いてみたら?」
「違ったらどうするの?でも藤ヶ谷さんとは付き合えないね」
「結婚する前の遊び?」
「結婚を前提にって、婚約者いるのに、口説き文句って事?」
「かもね」
私は藤ヶ谷さんとは別れなくちゃと心に決めた。
その時ダメ押しのように拓海の言葉が蘇った。
「若い子がいいに決まってるだろ」
藤ヶ谷さんは三十代、私は四十代、絶対無理だ。
俺は、雫が俺と意しているとは思いもしなかった。
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