39人が本棚に入れています
本棚に追加
好きが嫌いに変わった理由
染谷花純、二十九歳。三つ年上の夫がいるが、現在子供はなし。
でも、ちゃんと人並みに幸せだと思う。
夫は婿養子なので家同士の格差は否定できないけど、優しいし、とことん尽くしてくれる。所謂、愛妻家といっていいんじゃないだろうか。
今日だって、料理下手な私に代わって、お弁当を作ってくれたのだから。
「いってらっしゃい」
パンプスに足を突っ込んだタイミングで、一段のコンパクトなランチバッグを手渡してくれる夫。
「いってきます」
私はそんな彼に微笑みかけ、互いに軽いキスを交わす。本当に変わり映えのない、いつもの光景。でも本音を言うと――嫌い。
夫が嫌いなわけじゃない。彼は本当によく尽くしてくれている。嫌いなのは、私自身のことだ。
私には――私の身体は、どう頑張ったって子供を宿せない。理由は今から一か月前、癌を患った影響で、子宮を摘出してしまったから。
当然、そのショックといったら、口ではとても言い表せなかった。
よりにもよって、これからっていうときに。なんで私が? ――そう思った。卑屈だと分かっていても、他人の家の子供を羨まずにはいられなかった。
最初のコメントを投稿しよう!