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アフォガート
俺――井上真尋は、果てて意識を手放した哀れな女を横目に、スマホでメッセージを送信した。
『ミッションクリア』
すると僅か五秒ほどで、既読と共に返信が入った。
『同じく。こちらもコンプリート』
それを目にした途端、俺は思わずふっと破顔し、静かに喜びを噛み締める。
ようやくこのときが来た。コイツらへの復讐を、俺たちがどれだけ待ち望んでいたことか。
メッセージの送信相手――染谷春樹は、今、裸で隣に寝ている女・染谷花純の夫である以前に、俺と復讐を誓い合った同志だ。
昔、俺と春樹の両親は、共に小さな町工場を経営していたのだが、提携先の企業から、ある日不当に契約を打ち切られたせいで、倒産に追い込まれた。
その提携先というのが、他でもない染谷重工――染谷花純の親族が、代々経営している大企業なのだ。
無論、花純本人には何の罪もない。コイツはただの、無能な社長令嬢というだけだ。
だが無能なこの女でも、取り入って利用しなければ、あの大企業を追い詰めることはできないと思った。
案の定、夫や周りに心からの信頼を寄せられなくなった花純は、事後にペラペラと話してくれた。
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