行き着く先、沁みる優しさ

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 ***  湯気の立つコーヒーに息を吹きかけつつ、恐る恐る口へ運ぶと、芳醇(ほうじゅん)な香りとほろ苦さが、渇いた喉を潤した。 「美味しい……」  ため息と共にそっと呟き、カップをソーサーに戻すと、井上(いのうえ)くんは「良かった」と頬を緩めた。そして、そのままじっと私を見つめてくる。 「……なに?」  戸惑いと恥ずかしさが半々。つい、ぶっきらぼうに返してしまった。が、彼は気にする素振りも見せず、微笑んだままおしぼりを差し出した。 「目元、ちょっとだけ腫れてる。泣いた?」 「えっ」  私は咄嗟におしぼりを受け取ると同時に、左手を目元に当てがう。途端、ぼやけていた視界が徐々に開けていった。 「私、泣いてたんだ……」  大雨の中だったからだろうか。全然気づかなかった。  しみじみと漏れた呟きがおかしくて、私はふっと微笑したが、井上くんは笑わなかった。 「……花純(かすみ)」  昔のように名前を呼ばれ、肩がピクリと上がる。思わず反射的に椅子から立ち上がりかけたところで、追いつかれて素早く右手を掴まれる。 「……離して」 「離さない」 「なんで……?」 「なんでって……」  はあ……と零される盛大なため息。
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