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「辛いなら辛いって、ちゃんと言いなよ。話せるようになるまで、いつまででも待つから」
俺だったら、そんな顔させない。――そんな言葉をかけられたかと思うと、正面からきつく抱き締められた。
***
気持ちが少しは落ち着いた頃、彼は最後の、意味深な言葉の理由を話した。
「俺、知ってたんだ。……花純が子供産めない身体になったこと。あと、その影響か分からないけど、旦那さんとか、周りとギクシャクしてるっぽいっていうのも」
私は、また渇いた笑い声を立てた。
「ほんと、噂って怖いね。誰が広めてくれちゃったんだろ」
「無理して笑わなくていいから!」
途端、井上くんは一変、悲痛な声を上げると、再び私を抱き締めた。そして耳元で、優しくも震える声で囁いた。
「いいよ、我慢しなくて。気の済むまでちゃんと泣きな。大丈夫……」
もう大丈夫だから。――その瞬間、私は今度こそようやく、緩んでいた涙腺が決壊したのを感じた。
そのまま、子供みたいに彼の背にしがみつき、本当に久しぶりに、思いきり声を上げて泣いたのだった。
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