好きが嫌いに変わった理由

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好きが嫌いに変わった理由

 染谷(そめたに)花純(かすみ)、二十九歳。三つ年上の夫がいるが、現在子供はなし。  でも、ちゃんと人並みに幸せだと思う。  夫は婿(むこ)養子なので家同士の格差は否定できないけど、優しいし、とことん尽くしてくれる。所謂(いわゆる)、愛妻家といっていいんじゃないだろうか。  今日だって、料理下手な私に代わって、お弁当を作ってくれたのだから。 「いってらっしゃい」  パンプスに足を突っ込んだタイミングで、一段のコンパクトなランチバッグを手渡してくれる夫。 「いってきます」  私はそんな彼に微笑みかけ、互いに軽いキスを交わす。本当に変わり映えのない、いつもの光景。でも本音を言うと――嫌い。  夫が嫌いなわけじゃない。彼は本当によく尽くしてくれている。嫌いなのは、私自身のことだ。  私には――私の身体は、どう頑張ったって子供を宿せない。理由は今から一か月前、(がん)(わずら)った影響で、子宮を摘出してしまったから。  当然、そのショックといったら、口ではとても言い表せなかった。  よりにもよって、これからっていうときに。なんで私が? ――そう思った。卑屈だと分かっていても、他人の家の子供を羨まずにはいられなかった。
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