アフォガート、あります

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アフォガート、あります

 とある日、面接を終えて駅へと向かう道すがら、スマホを点灯させると時刻は昼の十二時を回っていた。  ――お腹空いた……。  なんとなく感じていた空腹が、ここに来て一気に押し寄せる。  ――でもここら辺、あんまりいいお店ないし……。どうするかな。  周りを見渡すも、雑居ビルに囲まれた中、目に入ったのは一軒の寂れた定食屋のみ。赤い暖簾(のれん)と半透明の引き戸は、余計に客の偏った年齢層を感じさせる。  しかし駅構内や周辺まで行っても、確か飲食店なんてなかったはず。仕方ない。  ため息をつき、赤い暖簾に近づいたそのとき。扉の横――足元に、木目の看板が置かれていることに気づいた。 『アフォガート、あります』  そこには、白いチョークでそんな風に書かれている。なんでアフォガート? ――そう思ったが、好物の誘惑には抗い難い。  私は興味の向くままに、その看板の指示に従って歩を進める。  すると、路地裏に入ったところで、一軒のカフェが見えてきた。外観は今どきのオシャレなパステルカラーのデザインなのに、店内からは客の気配が全くしない。  なんで、こんなところで店をやろうと思ったのだろうか。なんだか損をしているというか、勿体ない気がする。  そんなことをぼんやりと思いながら、私は自動ドアを潜った。――まさかそこで、運命的な再会が待っているとも知らずに。
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