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「高校のとき、同じクラスでサッカー部だった、井上くん!?」
「そうそう、その井上! あー良かったぁ。覚えてくれてた……」
人差し指をピンと立てて、大きく頷いたと思いきや、そのままへにゃへにゃと脱力した井上くん。
私はその姿に、思わずぷっと軽く噴き出す。
「そりゃ、忘れるわけないよ。三年間ずっと同じクラスだったんだから」
「まあ、確かにそうだよな」
井上くんも、元通りの人懐っこい笑みを零す。
「そのうちの一年は、付き合ってたんだから」
その言葉には反応を示さず、私は黙ってカウンター席の奥に腰かけると、淡々と注文した。
「アフォガートください」
「はい、畏まりました。――にしても、全然変わってないな。そうやって照れたときに塩対応、寄越すところも」
手際良く準備していく彼を横目に、「そうかな」と私は苦笑する。気恥しい笑みじゃなくて、本当に苦い笑み。多分、いくらあなたでも引くくらい、私は変わっちゃったよ。
先に出されたお冷に口をつけ、私はこの全てを吐き出したい思いを、必死に飲み込む。
久しぶりの再会なんだから、こんな重い話は駄目だ。もっと明るい話題を振らないと。明るい話題……明るい話題……。
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