39人が本棚に入れています
本棚に追加
思い出と暗雲
アフォガートは、私にとって特別なデザートだ。
高校時代、友人と放課後に、また試験終わりのご褒美に。ちょっと背伸びしたくて、馴染みのチェーンカフェで、よく注文したものだ。
冷たくて甘いバニラアイスに、熱くて苦いエスプレッソ。この二つの相反する味わいと、薄く黄色がかったバニラアイスが、徐々にエスプレッソの深い茶色に染まっていく様は、まさに魅惑でドキドキした。
今日注文したアフォガートは、チェーンカフェとはまた違った味わいだった。
私、こっちの方が好きかも。――そう伝えると、彼は『お世辞でも嬉しいよ』と、柔らかく微笑んだのだった。
――ちょっと遠いけど、また行きたいな。
そんなことを思いながら、行きしなより足取り軽く帰路に着いた。
「ただいまー」
声を上げつつ、上がり框に足をかける。すぐに「おかえりー」と、間延びした声が聞こえてきた。
夫は今日、有給を取っているらしく、会社は休みだ。
「あのね、さっき久しぶりに、高校のときの同級生に会ったの。びっくりしちゃった」
リビングに移動するなり、努めて明るくそう報告すると、彼は「へぇー」と手元のスマホから顔を上げた。
最初のコメントを投稿しよう!