思い出と暗雲

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思い出と暗雲

 アフォガートは、私にとって特別なデザートだ。  高校時代、友人と放課後に、また試験終わりのご褒美に。ちょっと背伸びしたくて、馴染みのチェーンカフェで、よく注文したものだ。  冷たくて甘いバニラアイスに、熱くて苦いエスプレッソ。この二つの相反する味わいと、薄く黄色がかったバニラアイスが、徐々にエスプレッソの深い茶色に染まっていく様は、まさに魅惑でドキドキした。  今日注文したアフォガートは、チェーンカフェとはまた違った味わいだった。  私、こっちの方が好きかも。――そう伝えると、彼は『お世辞でも嬉しいよ』と、柔らかく微笑んだのだった。  ――ちょっと遠いけど、また行きたいな。  そんなことを思いながら、行きしなより足取り軽く帰路に着いた。 「ただいまー」  声を上げつつ、上がり(かまち)に足をかける。すぐに「おかえりー」と、間延びした声が聞こえてきた。  夫は今日、有給を取っているらしく、会社は休みだ。 「あのね、さっき久しぶりに、高校のときの同級生に会ったの。びっくりしちゃった」  リビングに移動するなり、努めて明るくそう報告すると、彼は「へぇー」と手元のスマホから顔を上げた。
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