彼という人

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彼という人

 彼は平生、無である。人間関係に於いては、素より上っ面の愛想だけである。その折、心中は空である。日の透ける障子紙の向こうに、誰か居ると思って開けると、誰も居ない。その程度ものである。しかし、それだけでも良しとしなければなるまい。彼の世界は、多様な愛想と、無で平穏が保たれている。  平らかなるを起伏させるは罪である。怒りや苛立ちを表に出すは、ものの憐れを知らぬ者である。  嵐の如く掻き回されるのは御免であり、杖でつつかれるのも又御免である。彼は凪を持つ者をこそ尊ぶ。  これが、温厚で優しいと評される、彼という人間の真理だ。
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