【3】草吹甲斐

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〜TERRA〜 3階〜5階が医療機関となっている。 21:00、3階にあるオペ室のドアが開いた。 「ラブさん!留衣は?」 篠田譜真が真っ先に近寄った。 珍しく険しい表情のラブ。 「とりあえず、最新の人工心膜を細胞と同調させることがてきたから、大丈夫だと思います」 確信のない答えも珍しい。 「アイ、彼女がアメリカのどこで心移植を受けたかを突き止めて」 「分かりました」 近くのスピーカーから声がした。 「移植された心臓は、非常に不安定で弱いものでした。運動や緊張による急激な変化に追従できず、心不全を起こす可能性は残ります。よくいますが、不完全です」 その意味には気付かず、助かったことで身体中の力が抜け、座り込む篠田。 「ふぅ…とりあえずは助かって良かった」 「津村さん、そのことを頭に置いて、気をつけてあげてください。2週間入院観察し、問題なければ、通常の生活や仕事は大丈夫と思います。また明日来ます」 そこへ凛がやって来た。 「警察(あっち)はかなり混乱してるみたいね。新龍会が絡んでいて、草吹甲斐の名が」 「草吹甲斐が日本に?」 「いえ、それはまだ。ただ、高嶺寛三に致命傷を負わせた凶器は、彼が子供の頃に作り、白真会の殺し屋達が使っていた武器」 「白真会は新龍会に潰されたと、鬼島組長から聞いたけど…15年前よね。だとすると、今は30近い年齢。生きていたなら、どんな大人になっているのか…」 医学界に今も残る、帝都医療化学研究所が進めたバイオテクノロジーの技術。 「草吹統治(とうじ)と妻の直美が開発した人工細胞生成技術は、現在のバイオ3Dプリンター技術によって、やっと陽の目を見ることに」 「その息子が表社会に出て来ないってことは、やはり死んでいるか…」 「闇社会で活躍してるか…ね」 外れない嫌な予感がラブの脳裏に浮かぶ。 (ラブ様、先日ご依頼された国土交通省の谷原孝蔵大臣ですが、少しおかしなことが…) その時。 「ドドーン💥❗️」 爆音が聞こえた。 (近い…そっちは)「警視庁⁉️」 連絡通路へ走るラブと凛。 〜5分前〜 1台のタクシーが警視庁ビルの前で停まった。 釣りを待たず、下りて玄関への階段を走る男。 受付にいた守衛が、監視カメラ映像で気付く。 不審者侵入のボタンを押した。 刑事課と警備員室のモニターに警告が流れる。 「何だ?」 刑事課には、まだ全員がいて、素早く桐谷が吹抜けの廊下に出た。 21:00で、玄関のドアはオートロックされる。 その特殊強化ガラスを叩く音。 「高嶺ワールドトレーディングの相葉だ、開けろ! 重要な証拠がある、開けてくれ!」 入り口の集音マイクがそれを拾う。 「相葉克紀、48歳。高嶺宗治と共に運輸産業を回していた重役です」 自席にいた昴が直ぐに調べ出した。 「高嶺が密輸していた証拠が、ここにある!」 大きめのスーツケースを、ガラスにかざす。 警棒を持ち、警戒しつつ近付く守衛。 必死の形相に、リモコンでロックを解除した。 桐谷が、まだ停まっているタクシーに気付く。 「開けちゃダメ、離れて❗️」 その声に振り向いた瞬間。 ドアが開いた。 「ヅドドーン💥💥❗️」 激しい爆炎に吹き飛ぶ2人。 伏せた桐谷が叫ぶ。 「昴、タクシーを追跡!」 立ち込める爆煙の中、階段で下りて行く桐谷。 戸澤が後に続く。 「タクシーは、首都高湾岸線で、東京港トンネルへ入りました」 耳に付けた通信機で伝える昴。 久宝と淳一は、玄関へ銃を構えて様子を伺う。 「玄関クリア、襲撃ではない様ね」 下りた桐谷が伝えた。 2人は形すら残っていない。 「社長の椅子を真純に奪われ、ヤケになって暴露か? かなり必死だった様だが」 「ハメられたのね、あのスーツケースには、例の爆弾が入っていたとも知らずに」 「確かにあの爆炎は、セムテックスの特徴だ。周りを一瞬で焼き尽くす」 桐谷と戸澤に、豊川が加わる。 「皆んな大丈夫?」 通信機からラブの声がした。 「ラブさん、守衛が1人犠牲に。爆弾を持って来たのは、高嶺ワールドトレーディングの幹部、相葉克紀。密輸の証拠だと言っていたわ」 「高嶺が密輸を?」 「だとしたら、裏に新龍会がいる可能性が高いわね。もしかしたら…草吹甲斐は新龍会に?」 (ラブ様) (話の途中だったわね、アイ) (それもそうですが、アメリカ合衆国保健福祉省に、中嶋愛衣と本名である白川留衣の心移植の記録はありませんでした) (やはり極秘に行われたってことね。アメリカならもしや?とも思ったけど、人工細胞で作られた人工心臓なんて、さすがにむりよね) 開胸手術で見た中嶋愛衣の心臓は、本物ではなく、巧妙に複製された人工心臓であった。 (搬送された病院は分かるはず。調べてみて) (分かりました) 高嶺ワールドトレーディングと新龍会、そして闇のバイオテクノロジーに、天才医療科学者の草吹甲斐。 少しずつ、ラブには繋がりが見えて来た。 ただ…藤堂美波の件は知らない。
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