【4】刃

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コミュニケーションの新しい形として、様々に発展してきたメディアと言う媒体。 それでさえ既に形を変え、Social Networking Service、SNSが日常を支配していると言っても過言ではない。 その流れの中で生まれ、生きてきた子供達。 現代の教育社会は、戸澤と桐谷が思っていたものとは全く違っていたのである。 たった一つの言動が身を滅ぼし、周囲まで巻き込んで被害を拡大する。 ほんの僅かな間だけ。 それを扱うのは、自然な順応力と尽きない発想力を持ち、善悪の不確かな子供達である。 教頭が話す真実に、いつしか2人の心には、別の新たな炎が燃え始めていた🔥。 そこへ校長が戻って来た。 「えっ?」 驚く校長。 床に正座し、頭を下げる桐谷。 戸澤も正座はないが、姿勢を正し頭を下げた。 「何も知らず、批難ばかりして謝ります」 「いや…謝ることはない。刑事さん達が怒るのは間違いじゃなく、藤堂美波さんが、自殺したのもイジメによるもの。頭を上げて下さい」 そのままでは終わらない桐谷。 「でも…今のままではいけない。美波さんの命を、無駄にしてはいけないんです」 「例え俺たち大人が導いた間違った社会でも、大人には子供に、真の教育をする義務がある。同じ公務員として、それが俺たちの使命じゃねぇか?」 校長と教頭の目に、輝きが蘇る。 「桐谷さん、戸澤さん」 通信機から紗夜の声がした。 「話は聞きました。あの方も」 「あの方?」 「JAPAN-TV をつけてみて下さい」 戸澤がリモコンで、大きなテレビをつけた。 霞が関コモンゲートの高層ビルが映る。 「あそこには確か…文部科学省が」 桐谷が呟き、は花山警視総監だと知る。 「JAPAN-TV の柴咲(しばさき)希美(のぞみ)です。つい先程、政府から異例の広報が公開され、眉村首相が推し進めていた、SNS改正法案が可決し、同時に子供達を正しく導く為の、次世代教育プログラムの開始が発表されました」 映像が会見場へと変わる。 「私はいま、霞が関の文部科学省に来ています。この背景には、警視庁からの強い要請と、TERRAコーポレーションの全面的支援があっての決定だと言うことです。今から、文科省の河添(かわぞえ) 孝恵(たかえ)大臣の会見が始まります」 慌てて作った感の会見場に、重役が並ぶ。 その中に、花山警視総監の姿もあった。 「やるじゃない、花山さん」 「いえ、確かに繋いだのは花山総監ですが、決定打は、桐谷さん、戸澤さん、それに長沼教頭先生と梶川校長先生よ」 「まさか…紗夜⁉️」 「皆さん、もし寝てたら起こして下さい」 「花山警視総監⁉️」 TERRAが開発したあの通信機を、文科省の幹部達が耳に付け、魁中学校の様子を、全て聞いてていたのである。 会見が始まった。 「文科省の河添(かわぞえ) 孝恵(たかえ)です。この数ヶ月、幾度も臨時国会を開き、議論をし尽くして今日に至りました。昨夜の内に、総務省はSNS改正法案を正式に受理し、残された私は悩んでいました」 放送行政を所管する総務省情流局は、情報流通行政局の『放送ジマ』と、総括審議官の『情報ジマ』、郵政行政部の『郵行部』から成る。 メディア形態の複雑化・多様化が進み、統一化の機は逸したと言われる今般。デジタル時代における、放送制度の在り方を見直す放送法改正案と、新たなSNS改正法案は、様々な課題を持ちながらも、必要不可欠と判断された。 「帰り支度をしていた私のもとに、いきなり現れたのが、そこにいる花山(はなやま) 武道(たけみち)警視総監でした」 「花山さん、寝ててもいいから、軽く手を上げてください!」 紗夜の声に、軽く手を上げる花山。 「最近起きたある中学生の、生々しい実態を聞きました。イジメから皆んなを、そして学校を守る為に命を犠牲にした少女。教員から、叱ると言う(しつけ)を奪った社会。(おもて)には出ない、見えないイジメがあること。それに耐えて生きている子供達と、耐えきれず、助けを求めることもできずに諦める子供達がいる。花山さんと、そんな世の中について、朝まで素面(しらふ)で語り合いました」 ちょいちょい紗夜に起こされる花山。 啖呵を切っただけのことはある。 刑事課の全員が誇りに思った。 「早朝から文科省独自で臨時会議を行っていた最中、TERRAコーポレーションの社長、トーイ・ラブさんが、皆んなにこの通信機を渡して行きました。先に述べた少女が…いた中学校での、警視庁刑事課の刑事と学校側との…」 少し間が空く。 「の一部始終を聞きました。正義に報おうとする刑事と、その正義を社会に潰された教員のぶつかり合いでした。真理にたどり着くまでは、少々荒っぽいやり取りもありましたが、国家公務員と言う立前を盾に、真の教育の責任に、気付かせてくれました」 (マジか…やべぇじゃねぇか💧) 懐の銃が重さが増し、壁の穴を見つめる戸澤。 「都立魁中学校の藤堂美波さん。あなたの命を犠牲にした想いは、確かに受け取りました」 テレビ画面に、美波の写真が映された。 「ん? 瞳…何だかとんでもなく変な感じだぞ」 休みを取り、テレビを見ていた、稲村和樹。 「アイ、藤堂美波を捜して!彼女は生きてる」 紗夜から情報を得たラブ。 「おやおや、困りましたね…」 草吹甲斐のを探している神林尚人。 「マジか!どうなってやがる…藤堂美波?」 (ひと)仕事終え、マンションへ戻った進藤刃。 「その都立魁中学校をモデルスクールとし、次世代教育プログラムを推進して行くことを、ここに宣言します❗️」 「な…何だと⁉️」 驚く梶川校長と長沼教頭。 そこへ。 「困りますよ勝手に。許可はあるんですか?」 「ラブ社長の命令なので」 校長室のドアを開けた。 テレビカメラと集音マイクが入って来る。 「何なんだ君達は?」 「桐谷、今が逃げ時だ」 「そうね、行きましょ」 別のドアから抜け出す2人。 「本番入ります、5、4、3…」 「皆さん、TERRA-TVの山本リサです。J-TV の柴咲さん、ご苦労様でした。私は今、その都立魁中学校に来ています。校長先生、よろしくお願いします」 ラブプロデュースのJAPAN-TV と、TERRA-TVのコラボ生放送である。 「よろしくって…まだ」 「さっそくですが……」 車に乗り込んだ桐谷と戸澤。 「紗夜、やりやがったな」 「私…は、ラブさんに相談しただけで…💦」 「紗夜さん、花山総監は?」 「さっきから、寝息しか聞こえません💧」 「今から拾って帰るわ」 「お願いします桐谷さん」 一路、霞が関へ。 「因みにだな、あの万年筆は百均だぞ」 「100金って!やっぱり…高そうに思ったわ」 任務以外は、アメリカにいた桐谷。 まだまだ日本の知らない文化が多い。 「いやいや、多分違うって!」 「万年筆の心配より、校長室で銃を撃ったことの方を心配したら?」 (確かに…ヤバいよなぁ〜どうしよ💧) 結果は分からずとも、一歩踏み出した日本。 そんな中、藤堂美波の謎が深まっていく。
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