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コミュニケーションの新しい形として、様々に発展してきたメディアと言う媒体。
それでさえ既に形を変え、Social Networking Service、SNSが日常を支配していると言っても過言ではない。
その流れの中で生まれ、生きてきた子供達。
現代の教育社会は、戸澤と桐谷が思っていたものとは全く違っていたのである。
たった一つの言動が身を滅ぼし、周囲まで巻き込んで被害を拡大する。
ほんの僅かな間だけ。
それを扱うのは、自然な順応力と尽きない発想力を持ち、善悪の不確かな子供達である。
教頭が話す真実に、いつしか2人の心には、別の新たな炎が燃え始めていた🔥。
そこへ校長が戻って来た。
「えっ?」
驚く校長。
床に正座し、頭を下げる桐谷。
戸澤も正座はないが、姿勢を正し頭を下げた。
「何も知らず、批難ばかりして謝ります」
「いや…謝ることはない。刑事さん達が怒るのは間違いじゃなく、藤堂美波さんが、自殺したのもイジメによるもの。頭を上げて下さい」
そのままでは終わらない桐谷。
「でも…今のままではいけない。美波さんの命を、無駄にしてはいけないんです」
「例え俺たち大人が導いた間違った社会でも、大人には子供に、真の教育をする義務がある。同じ公務員として、それが俺たちの使命じゃねぇか?」
校長と教頭の目に、輝きが蘇る。
「桐谷さん、戸澤さん」
通信機から紗夜の声がした。
「話は聞きました。あの方も」
「あの方?」
「JAPAN-TV をつけてみて下さい」
戸澤がリモコンで、大きなテレビをつけた。
霞が関コモンゲートの高層ビルが映る。
「あそこには確か…文部科学省が」
桐谷が呟き、あの方は花山警視総監だと知る。
「JAPAN-TV の柴咲希美です。つい先程、政府から異例の広報が公開され、眉村首相が推し進めていた、SNS改正法案が可決し、同時に子供達を正しく導く為の、次世代教育プログラムの開始が発表されました」
映像が会見場へと変わる。
「私はいま、霞が関の文部科学省に来ています。この背景には、警視庁からの強い要請と、TERRAコーポレーションの全面的支援があっての決定だと言うことです。今から、文科省の河添 孝恵大臣の会見が始まります」
慌てて作った感の会見場に、重役が並ぶ。
その中に、花山警視総監の姿もあった。
「やるじゃない、花山さん」
「いえ、確かに繋いだのは花山総監ですが、決定打は、桐谷さん、戸澤さん、それに長沼教頭先生と梶川校長先生よ」
「まさか…紗夜⁉️」
「皆さん、もし寝てたら起こして下さい」
「花山警視総監⁉️」
TERRAが開発したあの通信機を、文科省の幹部達が耳に付け、魁中学校の様子を、全て聞いてていたのである。
会見が始まった。
「文科省の河添 孝恵です。この数ヶ月、幾度も臨時国会を開き、議論をし尽くして今日に至りました。昨夜の内に、総務省はSNS改正法案を正式に受理し、残された私は悩んでいました」
放送行政を所管する総務省情流局は、情報流通行政局の『放送ジマ』と、総括審議官の『情報ジマ』、郵政行政部の『郵行部』から成る。
メディア形態の複雑化・多様化が進み、統一化の機は逸したと言われる今般。デジタル時代における、放送制度の在り方を見直す放送法改正案と、新たなSNS改正法案は、様々な課題を持ちながらも、必要不可欠と判断された。
「帰り支度をしていた私のもとに、いきなり現れたのが、そこにいる花山 武道警視総監でした」
「花山さん、寝ててもいいから、軽く手を上げてください!」
紗夜の声に、軽く手を上げる花山。
「最近起きたある中学生の、生々しい実態を聞きました。イジメから皆んなを、そして学校を守る為に命を犠牲にした少女。教員から、叱ると言う躾を奪った社会。面には出ない、見えないイジメがあること。それに耐えて生きている子供達と、耐えきれず、助けを求めることもできずに諦める子供達がいる。花山さんと、そんな世の中について、朝まで素面で語り合いました」
ちょいちょい紗夜に起こされる花山。
啖呵を切っただけのことはある。
刑事課の全員が誇りに思った。
「早朝から文科省独自で臨時会議を行っていた最中、TERRAコーポレーションの社長、トーイ・ラブさんが、皆んなにこの通信機を渡して行きました。先に述べた少女が…いた中学校での、警視庁刑事課の刑事と学校側との…」
少し間が空く。
「議論の一部始終を聞きました。正義に報おうとする刑事と、その正義を社会に潰された教員のぶつかり合いでした。真理にたどり着くまでは、少々荒っぽいやり取りもありましたが、国家公務員と言う立前を盾に、真の教育の責任に、気付かせてくれました」
(マジか…やべぇじゃねぇか💧)
懐の銃が重さが増し、壁の穴を見つめる戸澤。
「都立魁中学校の藤堂美波さん。あなたの命を犠牲にした想いは、確かに受け取りました」
テレビ画面に、美波の写真が映された。
「ん? 瞳…何だかとんでもなく変な感じだぞ」
休みを取り、テレビを見ていた、稲村和樹。
「アイ、藤堂美波を捜して!彼女は生きてる」
紗夜から情報を得たラブ。
「おやおや、困りましたね…」
草吹甲斐の最高傑作を探している神林尚人。
「マジか!どうなってやがる…藤堂美波?」
一仕事終え、マンションへ戻った進藤刃。
「その都立魁中学校をモデルスクールとし、次世代教育プログラムを推進して行くことを、ここに宣言します❗️」
「な…何だと⁉️」
驚く梶川校長と長沼教頭。
そこへ。
「困りますよ勝手に。許可はあるんですか?」
「ラブ社長の命令なので」
校長室のドアを開けた。
テレビカメラと集音マイクが入って来る。
「何なんだ君達は?」
「桐谷、今が逃げ時だ」
「そうね、行きましょ」
別のドアから抜け出す2人。
「本番入ります、5、4、3…」
「皆さん、TERRA-TVの山本リサです。J-TV の柴咲さん、ご苦労様でした。私は今、その都立魁中学校に来ています。校長先生、よろしくお願いします」
ラブプロデュースのJAPAN-TV と、TERRA-TVのコラボ生放送である。
「よろしくって…まだ」
「さっそくですが……」
車に乗り込んだ桐谷と戸澤。
「紗夜、やりやがったな」
「私…は、ラブさんに相談しただけで…💦」
「紗夜さん、花山総監は?」
「さっきから、寝息しか聞こえません💧」
「今から拾って帰るわ」
「お願いします桐谷さん」
一路、霞が関へ。
「因みにだな、あの万年筆は百均だぞ」
「100金って!やっぱり…高そうに思ったわ」
任務以外は、アメリカにいた桐谷。
まだまだ日本の知らない文化が多い。
「いやいや、多分違うって!」
「万年筆の心配より、校長室で銃を撃ったことの方を心配したら?」
(確かに…ヤバいよなぁ〜どうしよ💧)
結果は分からずとも、一歩踏み出した日本。
そんな中、藤堂美波の謎が深まっていく。
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