【4】刃

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「気分はどうかな?」 「はい、何だかすごくいい感じです」 「良かった」 TERRA3階のICUで、眠っていた愛衣。 意識が戻るまで、油断はできない。 体調を尋ねられて、『大丈夫』と答えた時は、完全ではなく、何か不安がある時。 だからラブは、『大丈夫?』とは尋ねない。 ベッドの横に座るラブ。 月島風花が新しく開発した心膜。 その臨床試験ともなる、最後の手段であった。 「さっきまで譜真さんもいたのよ」 「私より忙しいスケジュールでしたからね」 「確かに。愛衣はそうねぇ…とりあえず2週間は安静だからね、社長命令です」 「うふっ、分かりましたラブ社長」 その笑顔に偽りはない。 それを確認して、マネージャーの津村に託す。 「じゃあ、何かあったらいつでも連絡して」 「ありがとうございます」 出て行くラブ。 外には凛が待っていた。 「やはり国交省の谷原大臣は怪しいわね」 タブレットで、尾行した先の映像を見せる。 日本橋にある『中央警備』と書かれたビル。 「調べましたが、警備会社として、区には登録されておらず、警備対象も見つかりません」 タブレットから、アイが喋る。 「架空の会社…か。中央署のすぐ近くで、摘発されない理由となれば…」 「警察上部は知っているってことね」 「花山さんは、そういうタイプじゃないから、その上となると、公安ね」 「それから、これを」 アイが、先日言いかけたものを見せた。 「どういうこと?」 「そういうことよラブ。最近中央署から対策本部へ来た久宝って刑事も、勘だけど怪しいわ」 凛の怪しいは、を意味する。 「それはそうとして、本業に戻るわ。ラブ、色々後回しにしたから、今からスタジオ7つハシゴよ!まずは14スタジオへ急いで!」 「りょ…了解💦 羽田はお願いね」 見せられた予定を一瞬で記憶したラブ。 エレベーターへ走る。 (羽田?…あ、忘れてたわ) エレベーターへ走る凛。 少し心配で覗き込む。 既に起きてはいた。 「気分はどうだい?」 「はい。何だかすごくいい感じです」 「それは良かった」 彼も優秀な医者である。 尋ね方は心得ている。 「お腹空いたでしょ。もうお昼にするから、顔洗って下りてらっしゃ〜い」 下から瞳の声がした。 「和樹さんは、お仕事行かないの?」 「今日は休みを取ったから、のんびりするよ」 彼女が…微笑んだ。 その笑みに偽りは感じない。 「おっと失礼。私がいたら邪魔だね、下で待ってるよ、美波」 「…はい!」 ホッとした和樹であった。 (とても自殺した()とは思えないな…?) 少しして、美波が下りて来た。 「やっぱ、ちょっと大きかったかな💦」 トレーナーがズレて、肩が見えていた。 丈も膝上10㎝まであり、細い脚が見えている。 「いいんじゃない、セクシーで」 冗談っぽく和樹を揶揄(からか)う瞳。 「そんなつもりじゃ…」 「私、手伝います」 和樹の言い訳を、美波が遮る。 「じゃあ大根サラダ作るから、千切りお願い」 「は〜い」 手際良く洗い、包丁捌きも慣れたものである。 「上手ね〜美波」 敢えて名前だけで呼ぶと決めていた。 「いつもやってたから」 何気にテレビをつける和樹。 他にすることもない。 「今朝早く、新宿フロントタワーの31階で爆発があり、インテリアデザイナーの七尾(ななお) 瑠璃子(るりこ)さんが亡くなりました」 「痛っ!」 「あらら、大変。カズ、救急箱持って来て」 「大丈夫です、少し切っただけだから」 そう言って、傷口を口に持って行く美波。 その前に止める瞳。 ハンドタオルを当てて、圧迫する。 「口には色々な菌がいるからダメよ。まずは綺麗な布などで圧迫して、止血するの」 「どれどれ、あとは私が。瞳はお昼を」 手際良く傷口を消毒し、止血を確認して、大きめのバンドエイドで完了。 優秀な医者の夫婦には、簡単な処置である。 気になるのは2つ。 慣れた包丁捌きで、七尾が死んだと聞いた瞬間に起きたこと。 そして、処置されながらも、その目はじっと、テレビのニュースを見つめていることである。
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