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〜新宿区西新宿〜
黒のBMWが小さなアパートの前に停まった。
中には男が2人。
「今日はどうもありがとうございました。迎えに来てもらった上に、酒の席までご馳走になってしまって」
「進藤さん、私の為に15年も耐えてくれて、お礼を言うのはこちらですよ。おまけに、奥さんと娘さんまで守れずに、申し訳ない」
無表情で話す男。
新龍会のNo.2、神林 尚人である。
対抗勢力の組長を討ち取った神林。
その身代わりに、府中刑務所に服役した組員の進藤 刃。
彼がヤクザであったこと、更には殺人罪で服役したことにより、残された妻と服役後に生まれた娘の由香は、世間から迫害された。
由香は中学生の時。
学校で酷いイジメに遭い、投身自殺をした。
妻も後を追う様に自ら命を断ったのである。
「アパートはそのままにしてある。ここで待っているから、好きなだけ居ればいい」
車を降りて、預かった鍵でアパートのドアを開け、中へ入った進藤。
(あの時のままだ…すまない。俺のせいで、お前と…娘まで…)「クソっ!」
悔やんでも悔やみきれない悔しさ。
靴を脱いで上がり、奥の部屋へ入る。
(ここは…由香の部屋か…ん?)
綺麗に片付いた部屋の机の上。
5冊のノートがあった。
手紙を添えて。
震える手で、手紙を開く進藤。
手紙には、たったの一行と、リスト。
『パパへ。仇をお願いします』
堪えきれない涙が溢れてくる。
ノートを開くと、中には事細かくイジメの記録が書き記されていた。
読むほどに込み上げる涙と怒り。
スーツの内ポケットに手紙をしまう。
ノートを両腕で抱え、家を後にした。
「もう…いいのですか?」
「はい。やるべきことが見つかりましたので」
少し間を置く神林。
「本来なら、あなたを幹部として迎えるもの。しかし…個人的な復讐に手を血に染めるならば、組からは抜けてもらいます」
「神林さん。…どうしても殺らないといけないんです。許してください」
「分かりました。私にも責任があります。復讐のお手伝いは、させて貰います」
ダッシュボードから、タブレットを取り出し、彼に渡す神林。
「それが、現在の奴らと住所です」
その時。
隣にダークグリーンのBMWが停まった。
「彼女があなたを手伝います。ホテルも金も好きに使ってください。私とはこれで最後です」
後部ドアが開く。
「恩に着ます。では、失礼します」
降りて、隣の車に乗り換えた。
目を合わせてうなずく神林と彼女。
別の方向へと別れるBMW。
神林がスイッチを押した。
バックミラーで、爆炎を確認する。
(進藤 刃か…惜しい男だ)
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