【5】反逆する細胞

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〜葛飾区京島〜 新龍会本部ビル15階、大会議室。 様々な言語が飛び交う中、神林が登壇した。 騒めきが収まり、拍手が起こる。 「はるばる海外からも、大勢の方々にお集まり頂き、ありがとうございます。ついに、そこにいる草吹甲斐博士の研究の成果が、実を結ぶ時が参りました」 甲斐が立ち上がり、軽く会釈する。 「まずは、その実物をお見せしましょう」 セクシーなチャイナドレスの美人達が、テーブルの上で布を被った、幾つかの四角い物を運んで来た。 「今やバイオテクノロジーと3Dプリンターの世界は進化し、彼の作り上げた技術により、ドナーを必要としない人口細胞でできた臓器の移植が可能となったのです!」 被されていた布が、一斉に取り除かれた。 「おぉ!」「Oh my god.」 「O мой Бог.」「훌륭합니다.」 「驚人!」「Sorprendente!」 様々な言語で、驚きと称賛の声が上がる。 「ここにあるのは、腎臓、肝臓、膵臓、肺ですが、実は既にバイオ3Dプリンターによる、心臓の製造にも成功してしており、移植した者は、3年以上経った今も生きています」 更に大きなどよめきが起きる。 「もちろんまだ、公式には認可されてはいませんが、近い将来、脳以外の臓器疾患による死亡は、根絶できる時代になるでしょう。しかしその前に、今日ここにお集まりの皆さんには、黙秘を条件に、ご提供を約束します」 もとより、集まっている者は全て、闇社会に身を寄せた世界の住人である。 「気になるのは2点。一つは製造期間ですが」 神林が甲斐を見る。 「腎臓、肝臓、膵臓、胃、腸などは、20〜30日で完璧に、急な場合は5日で、一時凌ぎ程度のものなら可能です」 予想外の速さに、拍手が鳴り響く。 「肺と心臓は、最低30日は必要ですが、既に移植を3度行い、いずれも予想以上の成功の実例があり、失敗はありません」 淡々と喋る甲斐。 それが逆に、信頼感を感じさせていた。 「既に3件の事前注文を頂いております。手術を行う病院は、こちらで指定させて頂きます。そして、値段については、個別に相談としますが、納得頂けるものと思います。さあ皆さん、壇上に上がり、サンプルをご覧ください。何の欠陥もない完璧な人口臓器です」 次々と見に集まる客人達。 神林を手招きする甲斐。 直ぐに行く神林。 「もういいか? 今一番忙しい時なんだ」 「あぁ、構わないですよ『先生』」 フッ…っと笑み、出て行く甲斐。 こうして、プレゼンは大盛況の内に終わった。 闇社会の命を助ける商売。 ある意味、表社会の先を進んでいると言える。
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