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〜港区台場〜
警視庁ビルに隣接して立つ地上360mのビル。
エンターテイメント会社TERRAコーポレーション。
社長は、トーイ・ラブ。
自らもシンガーソングライター、女優、モデルとして世界的な大スターである。
また、国政…更には国連のオブザーバーも務め、諸外国有力者からの信頼度も高く、様々な活動を支援している。
その裏では機密組織『EARTH』を主導し、地球規模の危機に対応していた。
「おかえり〜❣️」
フランスから帰国した篠田 譜真を、歓迎のハグで迎えるラブ。
ショパンの再来とまで言われる、若き天才ピアニストである。
「ただいま…でいいのかな💦」
大スターのハグに、顔が赤くなる譜真。
「あらら、フランスは寒かったのね、赤いほっぺしちゃって」
…違います💧
「愛衣さんも待ってるから、中へ」
「ラブ、全くもう…時間よ!」
行きかけたラブを凛が引き止めた。
「あ、そっか。16スタジオだったわね、直ぐ行くわ。ごめんね〜津村さん、彼をお願いします」
「はい了解。こんにちは、中嶋 愛衣のマネージャーをしている、津村と申します。どうぞこちらへ」
「相変わらず忙しい人ですね、ラブさんは」
「ええ、最上階の70階がラブの居住フロアなんですが、あまりいないですね」
エレベーターに乗り、67階のスカイラウンジで降りた2人。
愛衣が手を振っている。
「私はお邪魔ですので、これで」
「津村さん、ありがとうございました」
エレベーターが閉まるまで見送り、愛衣が待つ窓際の席へ、向かい合って腰掛けた。
「ヨーロッパでの活躍、聞いたわよ〜。素晴らしいわ。でも、これからの半年は、私に付き合ってね」
2人は幼馴染である。
「しかし、着いたのがよく分かったね?」
「それはね、津村さんが私の為に特殊なコロンを使ってくれていて、その香りで分かるの」
SV-UVH(Single Ventricle-Univentricular Heart )単心室症であった彼女は、アメリカで心移植手術を受けた。
その際に、脳の一部を損傷し、視覚障害者となたのである。
『必ず2人でステージに立つ』
その約束はラブの働きで、奇跡的に実現した。
作詞・作曲・ボーカル 中嶋愛衣(本名 白川留衣)、編曲・ピアノ伴奏 篠田譜真の曲『誓い』は、今でもヒット曲の上位をキープしている。
「留衣…あ、いや、愛衣も凄い人気じゃないか。ソロアルバムまで出してるし。ダウンロードして、聴いてるよ」
「マジで。何だか恥ずかしい〜。たくさん歌は作ってあったからね。それを、有名な歌手の方々が歌ってくれてて、夢みたい」
人の心を惹きつける彼女の曲は、多くの歌手に楽曲提供されていた。
「失礼します。ラブからのオーダーです」
ラウンジのウェイターが、シャンパンと幾つかの料理を運んできた。
「さすがラブさん。ありがとうございます」
グラスに注ぎ、下がるウェイター。
少し考える愛衣。
「ではでは、新曲が世界に届く様に、乾杯🥂」
キーン ♪ という響きに、周りの客から拍手が起こり、驚く2人。
人気のスカイラウンジは、一般客も多い。
但し、芸能人やクリエイター、アスリートなど、有名人へのサインや撮影は、マナーとして禁止されている。
照れながら軽く会釈する2人。
「あ、そうだった。これがあなたの部屋のカードキー。ここに親指を当てて使ってね。このビルを管理しているAIが、指紋認証してるから。迷ったり、困った時は話しかけてみて、ねぇアイ?」
「はい。譜真様、いつでもどうぞ」
テーブルの小さなスピーカーから声がした。
さすがTERRAだと感心するフリの譜真。
「このカードで、ビル内にある外部テナント店以外は、ぜ〜んぶ無料で利用できるの。ギャラに関係なくね」
「うん、分かった。とりあえず…食べようか」
2人が再会した、渋谷公会堂リニューアル記念コンサートの際、一月ほどここでリハーサルをしていたことを、愛衣は知らなかった。
「そう言えば…えっ?」
愛衣が見えないことに気付き、話しかけようとした譜真の目が点になる。
普通に食べ始めていた愛衣。
「耳に付けてる装置から、アイが頭の中に全部教えてくれるの。最初は難しかったけど、今では慣れちゃって、見えてた時と同じくらい」
さすがTERRAだと、今度は本当に感心する譜真であった。
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