「ネタバレやめてよ」

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 ──ああ、一人ぼっちになっちゃったな。  私は、人気(ひとけ)のない公園のベンチにポツンと座り、霧雨に打たれていた。別に、感傷に浸るつもりはなかった。ただ、ほんの少し疲れていて、一息つきたかった。暑さが尾を引く初秋の、火照った肌に、細かな雨粒が心地良かった。  それでも、こうして一人静かに過ごしていると、どうしても、頭によぎるのは彼のことだ。  ──こんなことなら、いっそ、出会わなければ良かったのに。  私は、彼と別れ話をした時のことを思い出す。 ──駅前のカフェ、間の抜けた感じのボサノバ音楽が店内にかかっていた。笑い声、雑音。  その中で、向かい合った、あの憎ったらしい面影。ありありと、浮かんでくる。  私は、彼を睨みつけ、言った。 「ネタバレやめてよ」  きっかけは、そう、いつものことだった。いつもならその一言で、終わらせていた。  ただ、あの時の私は、我慢の限界だった。小さな怒りが、積もりに積もって、その後別れ話を切り出すまでに、私を駆り立てた。 「いつもやめてって言ってるよね、どうして分かってくれないの。喜ぶわけないじゃん、嫌なの。先の展開が分かっているなら、言わずに、黙っておいてよ。後々の楽しみが台無しになっちゃうでしょ」  彼は一言も言い返さずに、申し訳なさそうな顔でうつむいた。そんな顔をするくらいなら、最初からやめておけばいいのに。私は尚更苛立ち、立ち上がる。 「──分かってくれないんなら、もう、別れる。さよなら。運命の人が私じゃなくて、残念だね」  そう言い捨てて、一人で店を出た。  本当は、彼のことが心の底から嫌になった、というわけではなかった。  ただ、私は、彼の癖が嫌だったのだ。  彼は、何でもネタバレをする癖がある。  私は、それが嫌だった。  しかも、一切の悪意がなく、純粋に私を喜ばせようとして言ってくるから、タチが悪い。
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