「ネタバレやめてよ」

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 ──彼と過ごした時間で、楽しかったことや、嬉しかったことはたくさんある。  だから私は、それらの思い出に浸ったり、或いは、純粋に彼の死を悼みたかった。  ──それなのに、こうやって彼について思いを巡らすたびに、付き纏うのは「運命」のことだ。彼を思う度に、純粋な愛慕や悲しみよりも強く、「運命」についての怒りが湧き上がり、心をどす黒く塗り替えていく。  ──「運命」、私は今でも、そんなものは大嫌いだ。大事な人を理不尽に奪い去っていくそれを、決して許すことはできない。殺したいほどに、壊したいほどに、大嫌いだ。けれど、私はあまりに無力で、小さくて、巨大なそれに組み込まれて、弄ばれることしかできない。そんなこと、分かってる。分かっている、痛いほどに。  ならば私は、憎み続けよう。それが、私にできるせめてもの抵抗だ。  どれだけ、「運命」が変えがたく、絶対的なものであるとしても。どれだけ、そう思い知らされ、打ちひしがされようとも。私は、絶対に甘んじて受け入れたりなんかしない。許さない、許さない。大嫌いだ。  でも、たった一つだけ──  出会わせてくれたことにだけは、感謝してます。  途端に、涙が溢れそうになる。思わず天を仰いだ。 「……出会ってくれて、ありがとう。あなたに会えて、本当に良かった」  代わりに零れ落ちた言葉は、秋晴れの空に吸い込まれて、消えた。
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