「ネタバレやめてよ」

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 例えば、私が、お気に入りのドラマを観ていた時のこと。  スリリングな展開に手に汗握り、思わず「どうなっちゃうんだろう」と言葉を漏らすと、「ハッピーエンドだよ。大丈夫」と横槍を入れてきた。  小説を読んでいた時だって、そうだった。 「それ、今度、実写化するみたい。主演は君が好きな俳優の──」  一緒に野球観戦していた時、あの時なんて、本当に酷かった。 「9回裏で逆転して勝つよ」 「ネタバレやめてよ」  この言葉を今まで何度、彼に返してきただろうか。本当に、数え上げればキリがない。  彼は何でも、先の展開が分かると、特にそれが私が喜ぶ類のものである場合、つい我慢ができずに喋ってしまうようだった。しかし私は、先に待つ喜びが半減されているようで、それがたまらず嫌だった。  私は、彼と出会った時のことを思い出す。  ──彼と初めて出会ったのは、学生時代、サークル同士の飲み会の場だった。 「運命の女性(ヒト)だと思った」  帰り道で二人きりになり、酔った彼がそう言った時、私は心底、気持ちが悪いと思った。  そうだ──「運命」、私は昔からずっと、この言葉が大嫌いだ。これには多分、幼少期の体験が影響しているのだと思う。  私が5歳の頃に、母親が不慮の事故で死んだ。甘えたい盛りの時期に迎えた母親の死は、幼い私に強烈な悲しみを味わわせた。不器用な父親と、厳しすぎる祖母には、甘えることなど到底叶わなかった。毎日、母恋しさに、泣いていた。  丁度その頃、周りの女子児童の間では、放映されていた魔法少女系アニメの影響で、「運命」という言葉が流行っていた。 「運命の乙女」の口上を真似して、玩具のステッキを振り、無邪気にはしゃいでいる──そんな幸福そうな彼女たちが、あの頃の私には恨めしかった。
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