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そして、母を失ったこと、それも「運命」だとしたら、そんなものは殺したいほど大嫌いだと思った。その幼い頃の思いをずっと、引きずりながら生きていたのだろう。
だから、「運命」など軽々しく口にする彼に、嫌悪感を抱いたのも仕方がなかった。
──けれど、まあ、彼にとっては、あれは単なる口説き文句ではなかったのだ。そう知るのは、しばらく経ってからのこと。
なんだかんだで交際を始め、しばらく経つと、私は彼が度々、予言めいた発言をすることが気になった。それで、ある日、ついに問いただすと、彼は彼自身についての秘密を私に打ち明けた。
「不思議なこと。だけれど、何も大したことじゃない」
そう、彼は言った。
彼の話すことによれば、彼にはどうやら予知能力めいた不思議な感覚があるようだ。近い未来の映像が、時折ふわりと、白昼夢のように、頭に浮かぶらしい。それが、ほんの数十分先の未来のこともあれば、3年程度先の未来のこともあるらしい。時間の間隔も、内容もまちまちで、どのような未来が見られるか、本人にも選べない。
だから、「当たり馬券でも分かれば良いんだけどね、そうもいかない」と彼は自嘲する。
「何も役に立たない、何にも。だから、大したことじゃない」
そう言って、本当に何でもなさそうに、笑って見せた。
当然、私にとっては、彼の話は、にわかには信じがたいものだった。
しかし散々、ネタバレを喰らわされ続けるほどに、流石に信じないわけにはいかなくなった。
彼の予言したことは、絶対に現実になる。
──ならば本当に、未来や運命なんてものは、あらかじめ全てが決まっているのではないか。
彼と一緒に居れば居るほど、そう思えてきて、嫌だった。
だから私は、彼と離れた。
だからあの日、別れ話を切り出したのだ。
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