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日ごと、痩せ細っていく彼を見るたびに、彼の話した未来が、着実に近づいてきていると実感させられて、辛かった。「運命」からは、逃れようがないのだと。強い絶望感と、憤りに駆られた。
彼もきっと同じだっただろう。いや、もっと、測り知れぬほどに、辛かっただろう。
それなのに、彼は結局一度も、恨み節のようなものは漏らさなかった。
それどころか──
「出会えたんだから、幸せだったよ」
そう、言ってのけた。私はたまらず、悔しかった。弱り果てた彼に、何かを求めるなんて、どうかしている。でも、どこまでも身勝手な私は、彼にも「運命」を憎んで欲しかったのだ。受け入れるような言葉は、聞きたくなかった。同じ気持ちで居たかった。やり場を失った憎悪の感情が、激しく私の中で渦巻き、気が狂いそうな心地だった。
それから、しばらく経つと彼は、喋ることも、動くこともできなくなった。
言葉を投げかけてみても反応せず、ただ眠るように、静かに過ごしているようになり、ある日ついに、鼓動も呼吸もしなくなった。穏やかともいえる最期だった。
彼が死んでからの数日間は、葬儀の準備や手続きに追われて、忙しなかった。彼を失ったという実感を得る余裕もないほどだった。
それがひと段落つき、ようやく私は、心にぽっかり空いた穴の大きさを自覚しつつあるのだ。
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