マッチングアプリの憂鬱

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「私の場合、アプリで出会ったんだけどね」 加恋はメニューを眺めながらそう言った。彼女の爪先にはピンク色のネイルがきれいに塗られていた。 「私も、そうなの」 私は恐る恐る打ち明けた。アプリを始めたこと、気の合う人を見つけたこと。一年前にはアプリなんて絶対しないと公言していただけに、私は少し気まずく感じた。 「え、お姉ちゃんがアプリ始めたんだ!」 加恋のきらきら光る瞳には、批判の意は全くくみ取れない。 「社会人になって一人暮らし始めたら、なんか寂しくて……」 私の言い訳じみた発言を加恋は華麗にスルーした。 「で、どんな人なのその人」 「どんな人って、さっき言った通りで……」 「そういうことじゃなくて、顔見せて、顔!」 加恋は手を伸ばしてきた。 「顔写真なんてないよ」 私が当たり前のようにそう言った途端、加恋はしかめ面になった。 「顔写真ないなんて、言語道断だよ」 加恋の意図が読み切れず、私はただ首をかしげる。 「いやいや、お姉ちゃん。マッチングアプリには鉄則があるんだよ。言ってなかったっけ?」 そういえば言っていたような気もするが、アプリを使う予定もなかった私は真剣に聞いていなかった。今になって、その鉄則が気になって仕方がない。 「何、その鉄則って?」 「まず一つめ、顔写真の載っている相手を選ぶこと」 そんなの、早速アウトではないか……。 「え?」 「アプリ人口が増えてきたからって、安全だとは限らないんだよ。一応身元を(さら)しているっていう意味でも、顔写真の載っている相手を選ぶべきなの」 それでも万全とは言えないけどね。加恋は小さな声で付け加える。自由気ままに生きているように見えて、こういうところはしっかりとしているのだから我が妹ながら凄いと思う。 「でも、顔写真載せたくないって人もいるでしょ。私だって、恥ずかしいから載せてないもの」 「そういう人もいるかもしれないけど。自分が選ぶ立場だったら、この鉄則は守るべきなの」 加恋は相変わらず不機嫌そうな顔をしている。アプリを始める前に、加恋に相談しておくべきだったか。いや、そうしていれば、レンさんとは知り合えていなかったのだからこれで良いだろう。
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