【3】花、匂うまえ(耀平視点)

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「島崎はこのような作品を造ろうとしていたのか。これは、金子の女将が好みそうな品の良さだな」  売りたい。そう思った。だが……。工房の作業台でその皿を品定めしていた耀平は、残念な思いでカナを見た。 「社長。これは売り物ではありませんよ。これは……将来の島崎君。いまは存在せぬ物です」  妻でも義妹でもない。職人の顔で言われる。カナはすぐさまその皿を『割ってもいいよ』と島崎に手渡した。  カナの隣にいる島崎も、もう納得済みの顔。 「これ以上のものができるまで目標として手元にいただきます。親方にもいわれました。まだスタンダードな製品を安定して作る段階だと」 「そうだな。……花南もヒロもそうだった。俺が工房を開くまで、それぞれの工房や制作先で創作をしたいと思いながらも、規定に沿った商品をまず作っていた」 「自分もそうします」  きっと彼は育つ。カナもそう思ったから、憑依をしてみたのだろう。 「あ、花の匂い」  またカナが唐突に。だが島崎も『ほんとうだ』と工房先へと向かっていく。それどころか、耀平の鼻先にも……。 「ほんとうだな。藤の花の匂いがするな」  耀平もカナと一緒に、島崎の後へと工房口へと立った。  向かいの家の藤棚に、ほんとうに藤が咲いていた。 「わあ、本当に咲いている」  カナの嬉しそうな顔。島崎も和んだ笑みを浮かべている。そう彼等は匂いどりも、季節にも敏感なんだ。  でも。今年も待っていた藤の花が咲いても……。耀平は妙な気分にさせられている。 『花は癒しだと思っていたのに。最近、どの季節の花もエロティックに見えてしまって困る』  暗闇に、男にまたがる花の匂いが、まだまとわりついている。  そんな花から生まれた娘がそうなったらどうしようと思う父心に苛む、花の季節。
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