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子供とのおでかけは早めにお支度を。
「ちーちゃんの帽子、帽子どこ?」
昨日、聖堂の丘までおさんぽに行った時にかぶせたかわいいの、カナもお気に入りの帽子がない。
「花南さん、耀平さんのお部屋にありましたよ」
「ありましたか、ありがとうございます。でも、どうして兄さんのお部屋に? もう、間に合わないよ」
ハウスキーパーさんがみつけてくれ、カナはそれを受け取って、抱っこバンドにおさまって胸元できょとんとしている娘にかぶせた。
「タクシー呼びますね」
「お願いします」
時計を見る。ギリギリだった。
カナはおめかしをした娘を胸に抱いて、ふっと溜め息。
「お兄ちゃんに怒られちゃうね。ちゃんと余裕を持って準備しないとだめってきっというよ」
もうすぐ夏休み。今日は航の高校へ行くことになっていた。
しかも『倉重航の母親として』。
話は半月前に戻る。
工房の仕事を終えた夕方、カナが自宅リビングへと戻った時だった。
耀平と息子の航が、向きあってなにやら話し込んでいる。しかも二人とも難しい顔。
耀平兄さんはまだ黒いスーツ姿のままで、航も夏の制服姿のまま。互いにちょうど帰宅したところで出会ったのか、そのまま話し込んでいるようだった。
ただいま――と声を掛けたいのに、掛けられない。
「どうしてもだめなのかよ、父さん」
「悪い。どうしてもだめだ。関西に出張が決まっている。日程もずらせない」
「じゃあ、祖母ちゃんは……」
「もうノータッチと決めているようだ」
父親に仕事の予定があり、航はなにか頼みたいのに頼めないようだった。
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