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「花南さん、来ましたよ。お気を付けて」
キーパーさんが玄関先までタクシーを呼んでくれ、カナは娘の千花と炎天下の中いざ出陣。
「花南さん、大丈夫ですか……」
母親ぐらいの年齢のキーパーさんが心配する顔。
「い、行ってきます」
カナも今日は、おでかけ用のワンピーススーツで『きちんとお母さん』を装ったつもり。
まだ乳児の娘を抱いて、タクシーに乗り込んだ。
✼••┈┈┈┈┈┈••✼
高校の正面門に到着。
「遅い! やっぱギリギリだった」
夏の白いシャツに黒スラックス、制服姿の航が仁王立ちで待っていた。
タクシーを降りたカナは、千花を抱いた姿でうつむく。
「ちーちゃんの帽子がなかなかみつからなくて」
「だから昨夜のうちに、揃えておけって俺言ったよね」
「……抱っこしたら、いきなり、うんちもしたから」
うんち……。航が復唱し、カナの胸元にいるベビーピンクのかわいい服を着ている千花を見下ろした。
「あはは! うんち!」
「声、大きいって」
カナはまわりに誰もいないか確かめてしまうほど、航がケラケラと笑っている。
やがて航の男らしくなった手が、娘『千花』のかわいい帽子へ。
「今日も絶好調だな千花は。よくきてくれたな、兄ちゃんの学校に」
元気よく今日もうんち。航がそういって、愛おしそうに妹の頭を撫でている。
「やっぱ小さな子供って思い通りにいかないんだね。ま、しようがないか。そんなことだろうと思って、先生にも『きっと遅れます』と言ってあるんだ」
「えー、そんなこと先生に言ったの?」
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