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「うん。だってその通りになったじゃん。俺、カナちゃんのことわかってるでしょ。小さな赤ちゃんもいるからと、一番最後の時間にしてもらったしね。次は誰もいないから、遅刻しても気兼ねするのは先生だけでいいだろ」
ぐうの音も出ず、カナは情けなさも含め恥ずかしくなって、少しだけ頬が熱くなる。
「もう、恥ずかしいよ。……姉さんだったら、こんなことなかったはずなのに……」
ふいに漏らしたひと言だったが、目の前を歩いていた航がちょっと驚いた顔で振り返った。しかも、今度は航が緊張しているような顔? カナは首を傾げる。
「たまにしか、母さんの話は耳に入ってこないんだけれど……。すごく綺麗な人で、なんでもできたと聞かされているけれどやっぱそんな人、だったんだ……」
今度はカナがどっきりとする。航に対して過度に母親である姉の話を避けてきたわけではないけれど、だからとて、進んで気軽に話せるものでもなかった。
母の話を聞けば、航にとっても歯止めが効かないものがあることはカナも耀平もそれとなく感じていたから。
でも。今日、航からそんな顔で聞かれたら、カナは避けるわけにはいかない。
「お姉さん、優等生だったからね。なんでもきちんとしていたよ。今日だって、母親として時間を守ってきたよ絶対に」
「……別に。カナちゃんがちゃんとした母親じゃないと言いたかった訳じゃないよ……」
気後れした言い方。そして、いつもカナより頼もしくあろうとする航らしくないしょんぼりとした姿に、カナの胸が痛む。それがほんとうの航の『子供としての姿』だからだった。
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