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航が自信なさそうに呟いた。カナはそっと、そんな航の背を撫でる。それだけで航がいつもの男の子の顔に戻ってくれる。
「姉さんに嫉妬したことも、嫌いになったこともないよ。だから姉さんは、航のお母さん、わたしにはお姉ちゃん、お父さんにとっては愛して結婚した女性、そして息子の母親だよ」
「うん、わかった。俺も大丈夫だよ」
そう笑いながら、航がちょっと気後れした顔で、カナの胸にいる妹を見下ろした。
「千花が生まれて、もっと家族になった気がする」
「うん、そうだね。お兄ちゃん、千花のこと頼むわよ」
「もちろん。倉重の女に近づく男は容赦しない」
真顔で言った甥っ子を見て、逆にカナは笑い出す。
「はあ? なんだよ。自分から頼んでおいて」
「え、だって。航ったら、お父さんそっくりになってきたなあって!」
本音だった。カナの中では血の繋がっていない父と子であっても。ほんとうに最近、そう思うことが多い。
「そりゃ……。父さんが育ててくれたんだもんな。俺のこと」
そしてふと……。血が繋がっているならば、言うはずもないような言葉を、航が時々口にしていることにもカナは気が付いていた。
なんとなく。航のなかで腑に落ちないことがいくつも積み重なってきている気がしている。杞憂であればいいのだけれど……。
✼••┈┈┈┈┈┈••✼
「先生、お待たせいたしました。妹が出掛ける前にいろいろやらかしたみたいで……」
航の報告が『うんち』でなくてカナはほっとしつつも、先生は『やらかした』だけでわかるようで、にっこりと笑ってくれている。
「おまちしておりました。お母さん」
お母さん! 先生に面と向かって言われたのは初めてだったため、カナはおもわず頬を染めてしまう。
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