2277人が本棚に入れています
本棚に追加
「初めまして、航の、叔母……いえ、叔母で、母になりました倉重花南です。甥っ子が、いえ、息子がいつもお世話になっています」
すんごいしどろもどろになってしまった。心の中では『息子だ』と覚悟していたのに、いざ他人様に告げようとするとはっきり言えない自分にまた情けなさが生まれる。
だって。まだ航にとって立派な『母です』と言ってはいけない気がしたから……。それとも覚悟が足りない?? もうこれだけで帰りたくなってきた。
教室にはいると、よくある光景、机が三つ向きあう形にしてあり、先生がすでに座って待っていた。
耀平兄さんぐらいの年齢の、眼鏡を掛けている男性教諭。白いシャツにグレーのスラックスという先生らしい男性だった。
その男性が、黒縁の眼鏡の奥にある目をにっこりと緩めてくれる。
「まだ小さな赤ちゃんを連れて大変でしたでしょう。うちも末っ子がまだ二歳なのでわかりますよ」
「そうでしたか。先生のお子様もまだ小さいのですね」
「そりゃあ、もう。四人もいると大変ですよ」
四人!! カナは目を瞠る。すんごい子だくさん先生だった。
「湯沢先生だから、きっと妹を連れてくる叔母のことはわかってくれると思っていましたけれど、融通を利かせてくださって、有り難うございました」
母親のカナではなく、航からまるで父親の耀平のようなお礼をしたので、カナはびっくりして固まってしまう。また情けなくなって、追ってお辞儀をする始末。
「先生、有り難うございました。わたしからもお礼を申し上げます」
最初のコメントを投稿しよう!