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「ええっと。あの、花南さんとお呼びしてもよろしいですか。倉重君からも、いまは母親になったけれど、叔母としてずっと側にいてくれた方だと聞かされていますが、叔母様なのかお母様なのかお互いに戸惑うならば、そうお呼びしてもよろしいですか」
「は、はい。もちろんです。その、母親として側にいるつもりなのですが、実際にここまで航を育てたのは実家の母と、義兄だった航の父親です。わたしは叔母として見守ってきただけに過ぎません」
「ですけれど。ずっと航君を見守ってきて、母親になる覚悟をされたのですよね」
「はい」
「充分だと思いますよ。どうぞ、おかけください」
あ、こちらも耀平兄さんとおなじ。年上の男性の余裕を感じられた。それだけでカナはホッとすることができた。
先生を正面に、航と並んで座る。その時にはもう千花はおでかけしただけで疲れたのか、カナの胸ですやすやと眠り始めていた。
先生の手元には話し合うための資料らしきものがあるけれど、先生はまだそれをこちらに見せようとしない。
「ガラス職人だとお聞きしております」
「はい。学生時代からずっと吹きガラスをしてまいりました」
「一筋でこられたのですね。いや、航君から聞いて一の坂川のショップを覗いたことがあります。冷酒用の酒器とお揃いのお猪口をいただきました。いま使うのに良い季節ですね。大活躍です」
カナも驚いたが、航も驚いている。
「知らなかった。先生が、父の工房の、叔母のガラスを買っていただなんて」
「うん、最近なんだ。花南さんに直接伝えようと思って」
「ありがとうございます。冷酒器なら、わたしが吹いたものです」
「夏らしい、さざ波の螺旋が涼しげで気に入っています」
その先生がカナを見て、ふと呟いた。
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