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「ガラスに先に会ってしまったので、それを作られた職人さんはどのような方かと、緊張しておりました」
今度は先生が気恥ずかしそうに俯き、黒髪をかいて照れている。
「職人さんとして生きてきた方がどのような方なのかイメージができなくて……」
それはカナも一緒――。
「わたしもおなじです。十七歳の男の子のほんとうの母親とは言えません。学校で自分がどうすればいいのかわからなくて緊張しております」
もう隣で航が肩を揺らして笑いを堪えているのに気が付いた。いつもガラスだけの叔母が、自分の母親として四苦八苦、しどろもどろ、大人しくなってしかもあたふたしている姿が面白いのだろう?
「航」
「ご、ごめん。だって……、こんな緊張しているカナちゃん、見られるだなんて……、父さんも見たいだろうなって」
そんな耀平兄さんの顔も一緒に浮かんでしまったため、カナは思わず顔をしかめてしまう。
今度は先生がクスクス笑っている。
「仲良く過ごされてきたことがよくわかりました。では、本題に行きましょうか」
先生と打ち解けることができ、カナも幾分か緊張がとけていた。
だけれど今から先生が言うことは、きちんとお兄さんに報告しなくちゃ。カナは手帳を開いて、真顔になった先生の説明に耳を傾けた。
そこで先生が資料を指さし困った顔で告げたのは――。
「お父さんの意見と、航君の意見が揃っていません。航君は昨年度にお父さんと決めた志望校よりもう少し偏差値が上のこちらの大学を。お父さんはこれまで通してきた志望校のままでと望んでいます」
航と耀平がひとまず決めた志望校は、関西でよく聞く有名私立大学。だが航が行きたいと望んだのは、さらに偏差値が上の耀平の出身大学。
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