【4】ちーママさん(カナ視点)

14/22
前へ
/342ページ
次へ
 それが本音? それならそれでいいのだけれど。と、カナはひとまず安心する。なのについ。彼の本当の父親である金子氏の出身大学を口にしてしまっていた。  でもあの顔なら。まだ気が付いてないかと胸を撫で下ろす。 「わたし。正直いって、航が決めた大学でいいと思う。もちろん、合格できることが前提だよ」 「わかってる」  そしてカナは……、航の向こうに久しぶりに優美な姉を見ている。 「姉さんなら、自分が決めた『上』へ行けって言うと思う。兄さんと喧嘩してね。兄さんも言っていたよ。美月は気が強くて引かない時もあったって。生きていたら、兄さんと喧嘩して『絶対に、あなたの行った大学に航も合格させてみせる』と言いきっていたと思う……」 「カナちゃん……」  住宅地の古い裏道で人もいなかったせいか、航がそっと寄り添ってきた。もうカナより高くなった頭を、カナの頭のてっぺんにこつんとあててきた。 「やっぱりカナちゃんが、お母さんだよ。カナちゃんの中にちゃんと、俺の母さんがいる。時々、カナちゃんと一緒に母さんがいるって感じられる。カナちゃんはずっとそうしてきてくれたんだよね」  そうかな。意識したことはないけれど。航がお姉さんを欲したら、それは姉をよく知っている妹のわたしが伝えられるとは思ってきたから。 「さっき。カナちゃんの向こうに、母さんがいたよ。ちょっとしか覚えていないけれど覚えている母さんが」  綺麗な姿で消えた姉。ちいさな航を慈しんでいた母の姿も姉の真実。航にはそれだけが残っている。それでいい……。カナはそっと目をつむり、緑の匂いを吸い込んだ。 「帰ったらお父さんと真剣勝負だね」 「うん。母さんがきっとそう言ってくれていたなら、俺も父さんと喧嘩する」
/342ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2270人が本棚に入れています
本棚に追加