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大丈夫。きっと航が行くというなら、お父さんも行かせてくれるよ。
カナは義妹としても、妻としても、そう思っている。
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出張から帰ってきた耀平に、カナは先生と話したことと航の意向と気持ちを報告。
やはり耀平兄も釈然としない様子だった。
だけれど、父子が大喧嘩にはならなかった。
「保留だ。いまは話し合わないことにした」
数日後、カナが耀平から聞かされた結果がそれだった。カナは眉をひそめる。
「兄さん。早めに決めた方がいいって先生も言っていたでしょ。いいの、そんな保留なんて」
「いいんじゃないか。航が上を目指すというなら、もうそのつもりで勉強をしているのだろう。俺がすすめる大学も確実なら、いまは保留にしておく」
航がめざす耀平出身の有名大学は今からも学力維持で目指せばそれでいいし、もし、志望校を父親がすすめる大学にしても確実だからそれでいい――ということらしい。
どうするの兄さんは――と、問いつめたら、『少しの間、そのままにしておいてほしい。頼む』と、夫の顔で言われてしまう。航を一緒に見守るパートナーとして黙ってみていてくれということだった。
だから、カナはもう首を突っ込まず、それからもいつも通り淡々と工房にて炉の炎に向かっていた。
しばらくして、夏休みになる。
陽炎が揺らめく夏の工房。汗びっしょりになって、いつもの白いシャツにカーゴパンツ、工場用エプロンで吹き竿の先に出来上がった上玉を、島崎君を相棒にポンテ竿に移し替えたところ。
今日は小さな水鉢をつくっている。その作り方を繰り返し、後輩の彼に叩き込む。
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