【4】ちーママさん(カナ視点)

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 工房の入口、燦々と午後の陽差しが降りそそぐ路地に、先生が立っていた。カナと目が合い、先生からお辞儀をしてくれた。 「先生?」  カナの目線につられ島崎君の目線が、ガラスから工房入口へと向かってしまう。 「そのまま、鉢の口を作っておいて」 「はい、花南さん」  成形を後輩の手に任せ、カナは吹き竿片手に、そのまま工房の外でたたずむ先生の元へ。 「いらっしゃいませ、湯沢先生。先日はお世話になりました。あの、本日は……? 航がなにか?」 「お父さんが今日はこちらにご在宅とお聞きして、やはり一緒にお話しをしておきましょうということになり伺いました」 「そうでしたか。暑い中、わざわざ有り難うございます。自宅はこちらです、どうぞ」 「いえ。ガラス工房を初めて見るので、覗かせてくださいとお父さんにお願いしたのです」 「とっても暑いですよ」 「そのようですね……」  先生が、先日とは打って変わって化粧っけもなく、無造作な格好をしているカナをじっと見つめている。  あ、しまった。こういう格好をみられることになってしまったと、カナは我に返る。でも眼鏡の先生が、優しく微笑む。 「ここで、あのガラスの酒器ができたのですね。今日は花南さんを見て、やっとイメージできた気がします」  先生がさらに笑顔で言ってくれる。 「ガラスの酒器と、あなたが重なりました。大事に使わせて頂きます」 「……あ、有り難うございます。職人として、とても嬉しいです」
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