2270人が本棚に入れています
本棚に追加
「航君が、叔母のガラスはすごいんだと話してくれたこともよくわかりました。日頃、クールにしている彼が、子供のような顔で教えてくれたので不思議に感じていたのです。母親代わりの女性がガラス一筋の職人さん、それがそれまで子供だった彼になにを感じさせたのかと――」
先生の目ではなかった。子供が四人もいるお父さんの疑問――というようにカナには見えた。
「航がわたしのことをそんなふうに、ですか?」
「はい。彼が見せた唯一の子供の顔でした」
そんな目でガラスを見に来る人は初めてだったので、カナは戸惑ったまま。
「花南さんはそのままで、きっとお母さんですよ」
ガラスを吹くカナを見ただけで『母』だと言われても、ますますわからなかったから、カナは呆然とするだけでなにも返答できなくなってしまった。
そうしていると、玄関から黒いスーツ姿の耀平兄が出てきた。
「先生。冷たい飲み物の準備ができましたので、どうぞ。工房はいかがでしたか」
在宅中でも、先生がくるとあって義兄はネクタイをきちんと締めていた。
「はい、素晴らしいですね。今度、吹いてみたいです。それでは、お邪魔いたします」
義兄の案内で、先生は本宅へと連れられていった。
これから。あの話を先生とお父さんと、きっと航も交えてするのだろう。
なんだ。結局、兄さんと先生と航で話し合うことになったじゃない。この前のわたしのお役目は無駄だったのかな……。カナはつい溜め息を落としてしまう。
最初のコメントを投稿しよう!