2270人が本棚に入れています
本棚に追加
またカナの入る隙はなし、だった。
そのまま工房へ戻った。
✼••┈┈┈┈┈┈••✼
夕方になり、工房も終業。カナは再び自宅へと戻り、いつも通りベッドルームで汗を吸い込んだ服を脱いで着替える。
下着を替え、新しいシャツへと着替え終わると、耀平がベッドルームに入ってきた。
「終わったのか」
「うん、暑かったよ。ちーちゃん、どうしてる?」
「航と遊んでいる」
「そうなんだ。じゃあ、シャワーを先に浴びてこようかな」
先生が来たこと、なにを話したのか。それを気にしないでベッドルームを出て行こうとした。
しかし、身体ごと引き留められ、もう兄さんの白いシャツの胸の中に抱きしめられていた。
汗でべたついてしまった黒髪なのに、そこに兄さんが鼻を寄せて匂いを吸い込んでいる。
「ガラスを吹いた後の、カナの匂いだ」
よく言われることだったので、カナは黙って聞くだけ。
「離して。汗を流して、いまのうちにちーちゃんにおっぱいあげておくんだから」
すると、今度は少し顔を離した兄さんが、なにか面白そうにしてカナを見下ろしている。なにかを含んだような笑み。
「な、なあに?」
「ちーのママだな」
カナが千花のことを『ちーちゃん』と呼ぶようになると、今度はパパの耀平は『ちー』と呼ぶようになってしまった。
「あたりまえでしょう。なんなのよもう」
まだからかうような楽しそうな、義兄の顔で見下ろしている。
でもその顔が急に優しく崩れた。
「航のちーママでもあったな」
「なに、それ」
ちーちゃんのママはわかったけれど、航のちーママの意味はわからない。
「航の母親をしてくれたな。ありがとうな」
最初のコメントを投稿しよう!