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え? カナは固まった。そして『ちーママ』の意味もわかった。それでも母親をしてくれたと言ってくれるお兄さん。絶対にそんなことはないと思っていたから驚いて――。
「母親みたいなことなんてしていないよ。先生の話を聞いて兄さんに報告しただけだし。兄さんが黙ってみていてくれと言うからなにもしていないし、今日だってわたしがいなくても先生と兄さんで決めたんでしょう」
「そうだな。カナが運んできてくれた美月の言葉で決めた」
さらにカナはびっくりして、抱きしめてくれている彼の胸から見上げる。
「航がそういったの?」
「ああ。カナちゃんが母さんが生きていたらこう言っただろうと教えてくれた。もし母さんが生きていてそういってくれるなら、頑張りたいってな」
「……兄さんは、それで受け入れられたの?」
姉のこと、死別した妻のことは間にはもう入れて欲しくなかったのではないか。もう忘れたい女性なのではないか。その女性の言葉で息子を動かしてしまうだなんて……。
だが義兄は穏やかに微笑み、カナを見つめてくれている。
「俺も同じ事を感じた。ああ、美月ならそういうだろう。そして、俺と喧嘩をしただろう。そして……俺は尻に敷かれた婿養子、最後に折れただろうってね」
案外、我が強かった姉。確かに最後には自分の思い通りになるように賢く立ち回れる人だった。そんな姉がこうと決めたらやり通すことも、夫だった兄さんにはとても通じるものだったよう……。
「それが倉重の生き方、美月が航にさせようとしたこと。死に別れても、航を託された夫だと俺は思っている。愛情は壊れても……。だから美月は航を俺のところに置いていったんだ」
「兄さん……」
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