2270人が本棚に入れています
本棚に追加
「いまは美月が俺に航を託してくれたことも、置いていってくれたことも感謝している」
姉のことをいいながら、それでも義兄はカナをきつく抱きしめた。
「カナ、航はおまえに母親でいてほしいと思っているし、感じている。そのままでいいんだ」
入る隙もないと思っていたけれど。ほんのちょっとのことだけで充分だったと言ってくれている? 十七歳のお母さんには及ばないけれど、航にとってはカナのままでいいと言ってくれている?
「ほんとに? それだけでいいのかな……?」
今度はカナも素直に、白いシャツの夫な兄さんに抱きついた。大きな手がカナの黒髪を撫でてくれる。
カナちゃん! 千花が泣き始めちゃったんだけど!
部屋の外から航の声、千花がふえふえ泣く声も聞こえてきた。
兄さんと笑って、一緒にベッドルームに出ると、大きくなったお兄ちゃんが小さな千花を抱っこして慌てているところだった。
「ちーちゃん、ただいま。お腹すいたね」
「ちー、ママが帰ってきたとわかっているんだな」
耀平も泣いている娘をみてもかわいらしくてたまらないらしく、千花のほっぺをぷくっとつついて愛おしそうにしている。
航の腕から、カナは自分の腕へと娘をもらう。ぎゅっと泣いている娘をだっこすると、千花がもうママのおっぱいを探している口をしている。
「わかるんだね、千花は。カナちゃんがお母さんだって」
「そうだな。カナでもママだもんな」
「どういう意味よ、それ」
どうあっても『あのカナがママになるだなんて』と、夫も息子もいつまでもからかうばかり。カナはいつもむくれる。
それでも娘の千花の泣き声がすこしやむと、男二人もホッとした微笑みになって、千花を愛おしそうにみつめてくれる。
最初のコメントを投稿しよう!