2270人が本棚に入れています
本棚に追加
たったひとりで必死にガラスを吹いていたまだ若い彼女を思い出す。そして……、久しぶりに会った義妹が、初めて色香を漂わせ女の空気を纏いはじめていたあの『甘やかさ』。
シンプルな服装だからこそ、際だつ色香と花の匂い。あの時、耀平は自覚した。俺は義妹をいつのまにか……。なのに義妹は、義兄の耀平と二年も一つ屋根の下で暮らしたのに、すっかり忘れたかのように、いやまったく存在していなかったかのようにして、もう地元の男と付き合っていた。
義妹が子供ではないことぐらいわかっていた。
豊浦の倉重家で一緒に暮らしている時も、男の匂いを纏って帰宅する夜もあった。
でも『どうせ俺は義兄だ。姉の夫だった男。義妹が近づけるはずがない、節操というものがあるだろう』と思っていた。
しかし耀平は、あの時、この小樽で悟ってしまう。
『節操と言い聞かせていたのは俺自身』だったのだと。
いつしか義妹は自分のそばにいる、いちばん近い女性となっていた。そして、誰にも触れて欲しくない存在になっていた。
あの時、久しぶりに義妹に会いに行ったあの時。『だめだ、どの男とも一緒になって欲しくない。俺と航のところに戻ってきてくれ!』。必死になって彼女が生きられる場所を作りはじめていた。
運河沿いから、少し古びた街の片隅にその工房がある。煉瓦造りにしているのは小樽の街の外観に合わせたのだろうか。
「倉重副社長、いらっしゃいませ!」
事務所を訪ねると、カナの最初の師匠である『遠藤親方』が迎え入れてくれる。
「寒かったでしょう」
「はい、義妹が教えてくれた地吹雪が『これか』といま体験してきました」
そこで穏やかな遠藤親方があははと珍しく大笑い。
「もう妹さんではないでしょう」
最初のコメントを投稿しよう!