【5】凜と咲く(耀平視点)

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 遠藤親方も、嬉しそうだった。カナがこの工房に来てからのご縁。あの義妹にも品を見る目が備わっていたようで、耀平自身が義妹が世話になっていることを抜きにして気に入ってしまったのだから。 「工房それぞれの特徴があります。自社でありますが、萩と山口の工房でも既に特色が異なっています。萩では伝統的なものを、山口は花南と徳永という若い職人が指導しているせいか商品に若さと独創性があります。こちら小樽の工房でしか手に入らない雰囲気もあります。それが欲しいのです」  もちろん、自社製品も使っていますよと告げる。その上で耀平は、手に持っている丸いフォルムの小さな器をみつめる。 「こちら小樽では、凛とした薄氷のような品を感じさせます。この斜め切り口になっている丸い球体の器。これに貝の刺身など盛りつけましたら海の中を思わせることでしょう」  やっと遠藤親方がほっとほころぶ笑みを見せてくれる。 「ありがとうございます。今回も耀平さんが品定めに来ると知り、花南の先輩達が試行錯誤、制作したものばかりです」 「そうですね。目移りしてしまいます、今回も」  お気に入りの工房だけあって、どれもこれも料理長が喜びそうなものばかりで、耀平も料理が思い浮かぶほど心躍るものばかり。  倉重観光グループが得意先となり、ここの工房職人も、ホテル旅館用品バイヤーとしても動いている耀平の好みをがっつり掴んでくれるようになっている。  迷いながらも、ひときわ目を惹く切子のデザートボウルを手に取る。  色ガラスの被せなし、無色透明の切子のもの。無色なのにその切子の模様がとても際だっている。 「この切子もいいですね。細やかな模様の緻密さ、熟練の技が窺えます。華やかな輝きを狙う花南とはまた違う……」
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