【5】凜と咲く(耀平視点)

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 義妹は『小樽へ行く』と告げていた。山口の家を出て行って数日、そろそろ小樽に落ち着いた頃だろう。親方にまた義妹がお世話になる挨拶をと思って連絡をしたが返答は『ここには来ていない』だった。  いったいどこへ行ってしまった? 山口の家を追い出しておきながら耀平は『早まった。俺は馬鹿だ』と酷く後悔したのはいうまでもない。きっとどこかでたかをくくっていたのだ。カナを追い出したとして、もう一緒にいられないと言い放っても、頼る場所がそれほど多くない義妹がどこへ行くかなど『小樽しかない、親方の元なら安心だ』と決めつけていたのだ。  義妹は耀平の怒りの本質をよく捕らえていた。甘えていなかった。だから『小樽は頼ってはいけない』と、本気だったのは義妹のほうだった。  携帯は解約され、若い頃カナに与えた銀行口座も解約されてしまっていた。連絡手段も金銭的援助を続けようと思っていた手段も断たれた。耀平も狼狽えていたが、カナの母親の静佳は半狂乱になっていた。  だがその親方が少しだけ表情を曇らせた。 「ですが、耀平さん。そちらもガラス工房を経営されているのに、自社の商品を使わなくてもよろしいのですか」  しかしカナはひとつだけ、耀平に気配を残していた。  小樽の親方に伝言を残していた。 『他の工房を探すとの連絡がありました。落ち着いたら小樽の私のところへ連絡をするから、お義兄さんにはひとりでなんとかやっているから安心して欲しいと……』 その伝言を受けた親方も、花南をきちんと捕まえておかなかったことを気に病んでいた。 『申し訳ありません。お義兄さんが私の工房から花南を強引に連れて帰る手助けをしてしまったので、今回は……花南の気持ちを尊重してしまいました』
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