【5】凜と咲く(耀平視点)

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 親方に気の毒なことをしたと耀平は苦く噛みしめた。義兄と義妹のいざこざに巻き込んでしまい、こうして気に病むような状態にさせてしまったことを。 『親方にひどいお願いを……、私も義妹もしてしまいました。気に病まないでください。こちらの家の問題です』 『ですが、そちらのお家のことを気にせずとも、いっとき手元に置いていた弟子でもあります。小樽にいる時も妙にひとりでいることにこだわっていたように感じていました。今回こそ、そちらとご縁を切るのではないかと心配です。それに……彼女はそんなに器用ではありません……』  遠藤親方は独身で子供がいない。職人人生を貫いてきた男だった。カナを見る目が男だったと感じたことはない。むしろ『子供がいたら、このような子がいたかもな』といいたそうな、そういう父親のような懐の深さをいつも感じていたから、耀平も頼ってしまっていたのだといまは思う。  そんな倉重家の問題を遠い北国から見守ってきてくれた遠藤親方だからこそ。若いカナがようやく母親になったことをしみじみと思ってくれているのが伝わってくる。 「娘の千花も、いつか小樽に連れてくるつもりです。母親が技術を得て、感性を磨いた土地ですから」 「そうですね。楽しみです。お待ちしております」  そこでまた親方がちょっと躊躇う様子で、耀平の目の前にいくつかの画像をプリントアウトした用紙を並べた。  どれも見覚えのあるものばかり。 「うちの花南が作った商品ですね」  画像はすべて、カナが考案して倉重ガラス工房で販売しているものばかりだった。 「そうですね。今年から通販会社での販売も参入されたのですね。そして倉重ガラス工房のオンライン通販で売り出していたものですね」
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