【5】凜と咲く(耀平視点)

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「この工房のオーナーは、すぐ近くでガラスのセレクトショップを持っています。私どもの製品はそこで売っております。もちろん小樽ガラスとしてです。ですがそのショップではオーナーが見定めた他のガラス製品も置いています。たとえば、ベネチアガラスもお気に入りで置いているぐらいです。その中に、倉重ガラス工房の品も置いてみたいといっています」  思わぬ商談に耀平は言葉を失うばかり。 「その、突然で。小樽には小樽の……と思っておりましたから」 「ですがガラスの街としての集客力はどこよりもあると思いますよ。いまは海外からの観光客も多いですからね。それにオーナーは花南のこともよく覚えています。うちの工房の出身者ならば余計に置いてみたいと言っているのです。きちんと山口で制作された倉重工房の商品と掲げます。こちらは集客力を持っています。ですが『売れるもの』を創る力を持っているものはなかなかおりません。オーナーは花南のセンスで生まれる商品を欲しているのです」  一時、迷い。でも……、耀平もそのオーナーの経営するための意向が痛いほどわかってしまう。 「わかりました。こちらこそ有り難いお話しです。是非とお伝えください」  ほっと胸を撫で下ろした親方が、とてつもなく安心した表情を柔らかに崩した。 「ああ、よかった。では、オーナーに連絡しておきます。本日の夕か明日になるかもしれませんが」 「日程は充分に取っております。大丈夫です」  こちらのオーナーに痛いところを見抜かれていると思った。  山口も萩も観光客はいるが静かな街。現地販売は限りがあるから、オンラインと通販、そして気に入ってくれた他地方の小売店へ卸すなど、販売ルートの拡張は欠かせないものだった。
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