【5】凜と咲く(耀平視点)

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「花南さんは目立つような派手さはなかったのに、妙に女性らしく、そこにいるだけでほんとうに『花』といいたくなる子でしたね。観賞用の華やかな花ではなくて、ひっそり匂い漂う花といいましょうか」  こちらのオーナーも、飛び抜けた美人というわけではなかったが、カナと同じ『雰囲気が美しい人』だと耀平は感じている。品があり知性があり、落ち着きがある。  寿司が握られるまでの間、つぶ貝肝の煮付けを先付けでいただきながら、まずはオーナーが注文したシャブリで乾杯をした。  大澤女史の夫は、この小樽でも有名な資産家の跡取り息子で、彼女はその妻だと聞いている。夫も観光業を中心にしているということだったが、倉重と違うのはホテル旅館業ではなく、観光地を中心とした飲食店業。レストランに居酒屋、カフェなどを道内で展開しているとのこと。  妻である彼女は、小樽で土産店として夫がつくったガラス産業の会社を任されていて、そのセレクトショップとガラス工房を取り仕切っているとのことだった。  夫妻で経営者という強い結束にて、資産家としての家も維持していると遠藤親方からもカナからも聞いていた。  そのオーナーがワインをしばらく楽しむと、また意味深な眼差しで耀平を見つめる。 「花南さんがこの小樽でひっそりと独り暮らしをしていた時も、お義兄様は心配でたまらなかったことでしょうね」 「はあ……。よくわからないうちに、突然に山口の実家を飛び出していったものですから。ですが、彼女からガラスを取り上げることもできませんでした」
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