【5】凜と咲く(耀平視点)

13/24
前へ
/342ページ
次へ
「まだ若すぎて、それまではお嬢様暮らしで……。でも意志が強い職人気質のお嬢様。しかも花の匂いを漂わせて……。私から見ても、羨ましいぐらいに、雰囲気のある女の子でしたね。花南さんから聞いたことありますでしょうか。私の夫は以前、花南さんにちょっかいを出そうとしていたこと」  口に付けていた白ワインのグラスを、耀平はぶっと噴き出しそうになった。行儀の悪いことにはならなかったが、口元が濡れてしまい、耀平もハンカチで口元を拭う。そして『それはどういうことなのか』と大澤女史を見つめる。 「私の夫は女性関係が派手で、結婚前からの愛人もいたほどです。その夫が花南さんを見逃すはずないと思いましたら案の定……」 「い、いつのお話ですか」  もう心穏やかではなかった。オーナーの夫にかどわかされそうになっていたなど。昔の終わった話とは言えども! 「花南さんがこちらに来られて一年も経とうかというぐらいでしょうか。工房の商品をパーティーで紹介しようと遠藤親方や工房の職人も製品と共に連れていった時です。彼女はまだ若くて質素な生活をしていたものですから、私のパーティードレスを貸してあげました。黒いフォーマルなドレスでしたが、それを着た途端、花南さんはとても品がよい女性に変貌したのを覚えています。そうですよね、元が山陰の資産家のお嬢様だったのですから。まだその時、私どもは知らなかったものですから目を瞠るものがありました。女好きの夫が見逃すはずありません。パーティーで近づいて……」  妻の彼女がそこで辛そうにうつむいた。そりゃそうだ。いくら女癖が悪い夫とわかっていても、目の前であからさまに若い女を、しかも、妻の配下にいる部下のような職人に手を出そうとしていたら辛いに決まっている。
/342ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2270人が本棚に入れています
本棚に追加