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あれはあれでかわいかった――と。そしていちばん美味しかったのは、ぶきっちょなクッキングの最中にいつのまにやらほっぺたについていたチョコレート。あれを舐めた時。あの時のカナの顔。
早く帰りたくなってきた。やはり独り寝は寂しい、彼女の匂いがする肌が恋しい。こんなキリキリとした寒空を歩いていると余計に想う。でも、心は熱い。
【 明日、夕方。宇部空港に着く 】
【 わかったよ。千花もパパがいなくて寂しそう。待ってるね 】
テーブルにつかまって立っている娘の画像も送信してくれ、ますます恋しくなる。
明日は彼女達のところへ戻れる。千花へのおみやげは、天使がくるりと回るオルゴール。
✼••┈┈┈┈┈┈••✼
やっと山口の家に辿り着く。まだ冬の夜は早く、すっかり暗くなってからの帰宅だった。
「ただいま」
リビングのドアを開けると、ダイニングテーブルのそばにエプロン姿のカナが立っていた。
「お帰りなさい」
いつものシンプルで質素な妻の姿だった。白いシャツに、シンプルな綿パン。そして職人用の工場エプロン。だが耀平はカナを一目見て、ドキリとする。心臓がぎゅっと掴まれたかのように――。
そこにはショートカットになった妻がいたからだった。そんなに短いヘアスタイルにしたのは大学生以来ではないだろうか?
「カナ、その髪……」
「うん、切っちゃった」
カナはケロッとしていた。
「俺が留守の間にか」
「ほら、話していたじゃない。千花がわたしの髪を掴んで舐めるんだって。兄さんが北海道に行った日ね、和室のおふとんで一緒に昼寝していたんだけど、目が覚めたら、一本に束ねていたわたしの髪を握って、ちょこんて座っているちーちゃんが舐めていたのっ」
「だから切ったのか」
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